十全大補湯か、補中益気湯、あるいはせいぜい、人参養栄湯。
これらはいずれも朝鮮人参が主体の温補剤に該当する。
要するに、温めつつ元気を増す栄養剤的な要素が強い。
癌で弱った患者さんたちには、うってつけのように思われるかもしれないが、決してそうとは断定できない。
以前ほどは、すぐすぐに死への直行とはなりにくいのが、昨今の、癌や悪性腫瘍の患者さんたちの実態である。
癌に比べ、風邪などをこじらせて生じる急性肺炎のほうが、よほど怖いものである。
近年の温暖化や、食物の豊かさ、室内の空調設備の充実などによるのか、昨今は、がんや悪性腫瘍の患者さんたちが、すべてさむがりや冷え性で、しかも栄養失調を来たしているケースは、超末期でない限りは、それほど多いわけではない。
当方の漢方専門薬局には、転移癌患者さんや、進行がんの患者さんが、漢方治療を望んでかなり多くの人が来られている。
中には、上記の漢方薬方剤を病院から出された為に、副作用を生じ、それに困って相談に見える方おられるのだ。
最近も、この暑い夏にも関わらず、ツムラの十全大補湯のような、かなり強い温補の漢方薬を出されたものだから、たまらない。
風呂上がりにひどい鼻出血を生じた方がいる。
即刻中止してもらったが、明らかにこの患者さんにはあっていない方剤である。
この方は、転移癌を沢山かかえるとはいえ、やせている割にはかなり元気な方で、中医学でいう陰虚のタイプで、顔がほてるなど、あきらかに虚熱が生じていた。
そういう体質の人に、上記方剤を投与するのは、明らかに間違いである。
病院では、正しい漢方的な診断がなされていないケースがほとんどであることは承知していたが、目に余る誤った投与が目立つのである。
このような陰虚体質で虚熱が生じやすい人に体力・免疫力を増強したければ、必ず弁証論治によって、西洋人参や六味丸・味麦腎気丸、あるいは知柏腎気丸などを用いるべきだ。
こういった尻拭い的なことは、しばしばで、もうちょっと病院の先生方も、漢方薬の勉強して欲しいというのが、偽らざる思いである。
それにしても、がん患者さんだからといって、むやみやたらに、上記の温補剤ばかりを多用するのは、明らかに間違っているのである。
以前多かった例では、最も多かったのは肺陰虚があきらかだから、滋陰降下湯や西洋人参、あるいはせいぜい麦門冬湯を出して、肺を潤してあげるべき患者さんに、小青竜湯という肺を温めつつ乾燥させる方剤を誤投与したりするから、却って、肺炎を誘発しかねない乾燥咳をかえって頻発化させるケースだった。
このパターンが過去には一番多かったが、さすがにこの辺は気がつかれたのか、最近では少なくなった誤治である。
ともあれ、昨今は最初に述べた、温補剤の三種類の乱用が多く、とても気になるところである。
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