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2018年10月25日

藿香正気散合猪苓湯について

藿香正気散合猪苓湯の応用
          村田恭介

 ●湿温初期に適応する三仁湯や藿朴夏苓湯をエキス剤で代用するには?

 梅雨から夏にかけて発病しやすい「湿温」に対する代表方剤、三仁湯や藿朴夏苓湯をエキス剤で代用する方法についての情報である。

 三仁湯は湿温初期に対する代表方剤であるが、類似方剤として「藿朴夏苓湯」も忘れてはならない。三仁湯と同様に上焦湿熱に対する治療方剤でもある。両者ともに湿遏衛陽証、あるいは湿鬱肌表証、または湿遏衛気証、あるいは湿熱鬱遏肌表証であり、適応証の違いは藿朴夏苓湯は表湿症状が顕著で化熱症状が弱く、三仁湯は表湿症状とともに化熱症状が明らかで、体内に強い熱感がありながらも体表に触れると熱感はない。

 両者は、湿熱の邪気が上焦を侵襲し、上焦肺衛を鬱阻するとともに中焦・下焦に瀰蔓し、表裏ともに鬱阻して表裏同病を呈したものである。

 本証は梅雨や夏から初秋にかけて発病しやすく、病変過程は比較的緩慢でしつこく、いつまでも持続し「風邪と夏バテが重なったようで、病院治療や薬局の薬を利用しても、いつまでもスッキリしない」といって漢方薬を求めて来局する人の中に適応が多い。

 煎薬を好まない人には、藿香正気散エキスに滑石茯苓湯(猪苓湯エキス)を合方し、さらに薏苡仁エキスを加えれば、かなり代用できるものである。
 とりわけ藿朴夏苓湯の代用方剤としてはピッタリのようで、猪苓湯中の阿膠は滋膩の薬味で一見マイナスのように見えるが、芳香辛散の薬味による肺陰損傷や湿熱傷陰の防止として却って好都合なのである。

 本命の三仁湯の代用とする場合には、藿香正気散をやや少量とし、猪苓湯と薏苡仁各エキスをやや多目にするとかなり代用可能である。

三仁湯(杏仁・白豆蔲・薏苡仁・厚朴・半夏・通草・滑石・竹葉)湿熱邪留気分(湿勝熱微)に対する清熱除湿・芳化淡滲法を体現した方剤。

藿朴夏苓湯(藿香・淡豆鼓・白豆蔲・厚朴・半夏・杏仁・茯苓・猪苓・沢瀉・生薏苡仁)湿温による湿阻中焦(湿勝熱微)に対する燥湿芳化・上宣下滲法を体現した方剤。

●藿香正気散合猪苓湯の応用

 猪苓湯は、肺・脾・腎・肝四臓の補益とともに滋陰利水の効能を持ち、膜腠区域の水分代謝の異常に対し、一定の調整作用を発揮することが出来る。このような猪苓湯に、芳香化湿・昇清降濁の藿香正気散を加えると、様々な湿阻三焦の病変に対処することが可能になる。とりわけ、煎薬を嫌ってエキス製剤で対処せざるを得ない場合に、各種の加減正気散の代用として有用であり、藿香正気散に猪苓湯を加えるか加えないかの工夫で、かなり対処できる。つまり、一・二・三の加減正気散証では湿熱傾向がみられ、四・五の加減正気散証では寒湿傾向がみられるので、前者には藿香正気散に猪苓湯を加えて代用し、後者には藿香正気散のみで対処する訳である。

 藿香正気散合猪苓湯は、エキス製剤で簡単に作れ、梅雨期や夏期に特有な各種疾患、とりわけ「寝冷え」が原因で発症する各種の疾患に大変有用であるので、応用・工夫されたい。

 蛇足ながら、例年も梅雨から盛夏にかけて、藿香正気散が主体となる急性疾患が多い。併用方剤としては猪苓湯や銀翹散は勿論、西洋人参・生脉散・麦門冬湯・五苓散などを併用する機会もある。

参考文献:陳潮祖著「中医病機治法学」より、藿香正気散の加減方の五種を引用させて頂く

〔1〕一加減正気散(《温病条弁》)

 【組成】 藿香梗六g 厚朴九g 陳皮三g 茯苓皮六g 杏仁六g 神麹五g 麦芽五g 綿茵蔯六g 大腹皮三g
 【用法】 水煎して三回に分け、微温で服用。(原方は分量が少ないので、二倍に増量してもよい。)
 【病機】 三焦湿鬱・昇降失調。
 【治法】 芳化淡滲・疏利気機。
 【適応証】 三焦の湿鬱によって昇降が失調したために、胃📠部から腹部に連なって脹り、大便がスッキリと排出できないもの。

〔2〕二加減正気散(《温病条弁》)

 【組成】 藿香梗九g 厚朴六g 広皮〔柑皮(広陳皮)〕六g 茯苓皮九g 防已九g 薏苡仁一〇g 大豆黄巻六g 通草五g
 【用法】 水煎して服用。
 【病機】 湿鬱三焦・痺阻経絡。
 【治法】 除湿宣痺・芳化淡滲。
 【適応証】 湿邪が三焦で鬱滞したために、脘悶〔胃📠部が苦しい〕・泥状便・身体の疼痛・舌苔は白・脉象が曖昧模糊としているなど。

〔3〕三加減正気散(《温病条弁》)

 【組成】 藿香九g 厚朴九g 陳皮六g茯苓皮九g 杏仁九g 滑石一五g
 【用法】 水煎して服用。
 【病機】 気機不宣・湿鬱三焦。
 【治法】 理気化湿・兼以泄熱〔理気化湿とともに泄熱を併用〕。
 【適応証】 穢湿〔湿濁〕が裏に着し、舌苔が黄で📠悶し、気機が不宣で、遷延すると熱を醸すもの。

〔4〕四加減正気散(《温病条弁》)

 【組成】 藿香九g 厚朴六g 陳皮六g茯苓九g 草果三g 山梔子一五g 神麹六g
 【用法】 水煎して服用。
 【病機】 寒湿阻于気分〔寒湿が気分を阻碍〕。
 【治法】 温化湿濁。
 【適応証】 穢湿が裏に着し、邪が気分を阻碍し、舌苔は白滑・脉は右が緩など。

〔5〕五加減正気散(《温病条弁》)

 【組成】 藿香六g 厚朴六g  陳皮六g 茯苓九g 蒼朮六g 大腹皮六g 穀芽三g
 【用法】 水煎して服用。
 【病機】 寒湿阻中〔寒湿が中焦を阻碍〕。
 【治法】 運脾燥湿。
 【適応証】 穢湿が裏に着し、脘悶・便泄〔下痢〕など。
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posted by ヒゲジジイ at 07:12| 山口 ☀| 中医漢方薬学『中医学と漢方医学の融合』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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