脳血管障害における風証は、内風が主体となることが多いので、実際には続命湯を早い時期から使用する機会は極めて少ないはずである。
外風の解決を主体として続命湯などを使用することがあるとすれば、急性期を過ぎて後遺症を解決すべく、本格的なリハビリを行う時期からであろう。
急性期の肝風内動に伴う各種の証候を解決すべき時に、続命湯など外風の治療方剤を安易に投与するのは、明らかに間違いである。
たしかに筆者自身も、古方派時代には脳卒中後遺症の相談に対し、続命湯によって良効を得た経験は数多いが、いずれも急性期の治療を終えた退院後のケースばかりであった。
「外中風邪」による症候は、肝風内動によるものよりも病状が軽いことが多く、主として上肢あるいは下肢の麻痺、顔面神経麻痺と言語障害、あるいは知覚障害などであり、半身不随にまで発展することは少ない。
外中風邪に対しては、とうぜんのことながら疏散外風が治法となる。
内風(肝風内動)が主体となる脳血管障害、つまり脳卒中における実際の臨床では、外からの寒風が内風を誘発して発病したり、肝風内動の誘因となった虚の状況に乗じて寒風の侵害をも許し、このために様々な後遺症や合併症を残したりする。
それゆえ、当然のことながら、この後遺症や合併症を解決するために続命湯や疏経活血湯など、外風治療の方剤の適応状況があり得る。
このため、現実にはかなり複雑な状況をはらむことが多いので、病態の推移に応じて臨機応変の対処が必要なのであるが、少なくとも脳卒中の早期から、続命湯などの外風治療の方剤を安易に投与することは、厳に慎まなければならない。
ともあれ、外中風邪の典型的な臨床例としては、あらゆる検査で脳血管障害が全く否定されている右顔面神経麻痺の中年女性に対し、疏経活血湯と五積散の合方による著効例がある。
また、30代の男性で寒風にさらされながらの連日の夜間作業後に生じた右上肢の麻痺感と軟弱無力感に対し、舌証として舌の歪斜が著しいことから外中風邪として、薏苡仁湯エキス製剤20日分にて速治した例など、本法を応用する機会が時折みられる。
但し、急性の発症期においては、必ず西洋医学的な諸検査を受けて脳血管障害の有無を確認しておく必要がある。
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