人気ブログランキングでフォロー   

2025年10月31日

脾湿についての考察

たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ
 ●寒湿困脾について

 寒湿困脾は、寒湿中阻とも称され、日常の臨床でしばしば見られる。

 病理的には寒湿の邪が内盛し、「中焦脾胃」という三焦の枢軸が困阻(阻遏)され、胃が痞えて苦しい・身体が重い・下痢・浮腫などの症状が発生したものである。

 脾は太陰湿土で、燥を喜(この)み湿を悪(にく)む。それゆえ、水遊び・雨に濡れる・湿気の多い場所に居住する・あるいは生冷物の過飲や過食などがあると、寒湿が内侵して中陽を困阻(阻遏)しやすくなる。

 とりわけ内湿がもともと盛んな者では、ちょっとした過飲や過食でも中陽が困阻されてますます寒湿が内生する。

 つまり、「太陰脾土」と「寒湿の邪」という同類は互いに招きあうので、容易に寒湿が脾にとりついてしまい、このために運化と昇降が失調して上述の諸症状が発生する。

 陳潮祖著『中医病機治法学』では、湿困脾陽や湿困脾胃という「実証」の病機に対応する平胃散証も、代表的な寒湿困脾として論じられている。

 しかしながら、寒湿困脾は「虚中挟実」の脾虚湿困に比較的接近し、胃苓湯あるいは香砂養胃湯などが適応する病態であるとする見方もあるので、注意を要する。

 たとえば、天津化学技術出版社の『臓腑証治』では、寒湿困脾においては水湿内停という寒邪を形成するものの、根本的な原因として脾虚の内在が前提条件であるとし、方剤例は胃苓湯と茵蔯四逆湯加減があげられている。

 さらに極端なものでは、脾虚湿困の別名が寒湿困脾であると記載する書籍もあるが、こればかりは錯誤としか思われない(たとえば人民衛生出版社刊『中医証候弁治規範』)。

 一般的には、脾虚傾向が顕著でない者が、過度な水遊びや水中作業・湿気の多い居住空間、あるいは暴飲暴食から脾陽が阻遏・損傷され、水湿内停を生じた急性症状では実証に属し、病機は「湿困脾陽」や「湿困脾胃」であり、平胃散類の適応となる。

 もしも寒邪が比較的顕著であったり、脾虚が内在して発病した場合でも実証に属する場合が多く、このときの病機こそが「寒湿困脾」なのである。

 藿香正気散や胃苓湯・平胃散加白朮、あるいは平胃散中の蒼朮を白朮に換えるなど、脾陽の損傷だけでなく腎陽の損傷や脾虚に対する配慮も必要であるが、脾虚が基礎にあっても実証が主体であることに違いはない。

 なお、ここで言う実証とは「邪実によって生じる一連の症候」という意味である。


 ●病機の呼称における記号学的な問題点

 脾湿の病変には、

@湿困脾胃
A湿困脾陽
B湿邪困脾
C寒湿困脾
D寒湿中阻
E脾虚湿困
F脾虚湿阻

など、中医学では最も常識的なこれらの病機が、書籍によっては上述のような異論や異説、あるいは混同・混乱、時には錯誤が見られるので注意が必要である。

 上記の@〜Fは、実証度の高い順に次の三種類に分類できる。

 【一】 @湿困脾胃・A湿困脾陽・B湿邪困脾の三種類は同義語に近い。急性で見られることが多く、実証に属する。

 【二】 C寒湿困脾・D寒湿中阻の二種類は同義語に近く、寒湿の邪が比較的顕著であったり、脾虚が基礎にある場合のいずれかであるが、急性で見られることが多く、実証が主体である。

 【三】 E脾虚湿困・F脾虚湿阻の二種類は同義語であり、慢性で見られることが多く、明らかに「虚中挟実」に属する。

 したがって、E脾虚湿困とF脾虚湿阻では、香砂養胃湯のみならず参苓白朮散や香砂六君子湯などの「健脾除湿」の方剤が適応となる。

 ただし、実際の臨床では【一】と【二】の中間型や、【二】と【三】の中間型も多く見られ、藿香正気散や胃苓湯・香砂養胃湯などに限らず、各種の基本方剤を加減・合方するなどすれば対処できる。

 このような平胃散から六君子湯までの類縁方剤については、脾湿という水湿内停(「胃内停水」というのは具体的な症候)の病変をキーワードとして、記号化された上述の病機類を参考にして、各自で詳細な分析・検討・整理を行い、実際の臨床における混乱を避けたいものである。

 たとえば、湿困脾陽と寒湿困脾を比較すれば、湿邪は陰邪であるから脾陽を阻遏するものの、寒邪がなければ腎陽にまで波及することは少ない。

 しかしながら、湿邪に寒邪が伴えば、脾陽を損傷するばかりでなく、容易に腎陽に波及する。

 このへんにも注意深い配慮が必要であるから、湿困脾陽に対する平胃散と、寒湿困脾に対する胃苓湯の差異として認識するのも、一つの方法であろう。

 以上の拙論は、却って初学者を混乱に陥れる恐れがあるが、現実的にはそれほど細かく分析しなくとも、適当な区分ができれば、それほどの不都合は生じない。

 しかしながら、「生体内の生命活動は言語のように構造化されている」というよりも、もともと「人体の生命活動は構造化された」ものであるから、その生命の宿る人間同士の意思疎通の道具である「言語」が構造化されていて当然であり、それゆえフランスの精神医学者、ジャック・ラカンが、ソシュールの言語学をモデルとして、「無意識は言語のように構造化されている」という命題を出発点にすることができたのであろう。

 このように、「生体内の生命活動は構造化」されているのであるから、病機の記号学的な理詰めの詮索が、実際の臨床に直結することになるので、高度な知識と分析力を獲得するには、さらに深く掘り下げた考察は避けて通れない。
ラベル:脾湿
posted by ヒゲジジイ at 14:13| 山口 ☔| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月28日

肝気鬱結の原因について

 1997年10月号(通巻533号)の『和漢薬』誌に発表した訳注、陳潮祖著『中医病機治法学』における「疏泄失調」の訳文後の「訳者のコメント」を増補改訂し、しかも今回平成17年になって再度改訂したものです。

たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ

 読者対象が主として漢方薬専門の医師・薬剤師であった関係で、時には遠慮会釈も無いかなり辛辣な指摘をしたものですが、表現はきつくとも、今読み直しても決して誇張した表現とは思われません。しかしながら、論説の視点がまだまだ一面的な部分がありましたので、再度改訂したわけです。

 現代社会における肝気鬱結(肝気欝結)の原因には、単なる欲求不満が昂じて発生する場合が比較的多く、臨床上もよく遭遇する証候(病機)の一つであるが、「ストレスの多い現代社会」という紋切り型の概括は、あまりにも浅薄である。

 昔の貧困と男女差別等に泣かされた封建時代における人々の肝気鬱結とは原因が明らかにことなることが多いようである。
 多少とも深く追究すれば、今日のような「成熟社会」においては、個人の自我意識とともに権利意識が相当に発達していると、有益な面も多々あるにせよ、反面困った問題として、過度な被害者意識や怨恨あるいは嫉妬心といったものまで異常に発達してしまうケースも見られ、そのために日々悶々とし、鬱々として楽しまず、些細なことにも不満が昂じて肝気鬱結を呈してしまい、さらには肝鬱化火にまで発展してしまうことがママ見られる。

 ところで、この「成熟社会」という表現は悪い冗談で、実は偽善と欺瞞に満ちた悪平等の社会であると指摘する識者もあるが、あながちまったく荒唐無稽な議論とも言えず、口の悪い識者に言わせれば「要するに成熟社会とは我儘社会に他ならない」ので、今後もますます肝気鬱結や肝鬱化火の証候(病機)を呈する患者さんは増え続けるに違いない。

 もちろん、現代社会といえども、そのような「我儘」だけが根本原因となっているはずもなく、様々な境遇により、例えば会社内での人間関係に悩む人々は最も多く、さらには夫の暴力による抑うつ状態やヒステリー症状もよくみられるものである。それゆえ、村田漢方堂薬局でも、四逆散・逍遙散・丹梔逍遙散〈加味逍遙散)、または抑肝散類や竜胆瀉肝湯などの使用機会は実に頻繁である。

 しかしながら、男性の我儘のみならず、昨今は以前にも増して目立つのが、女性のエゴイズム剥き出しの病理現象を観察する機会が多く、故松下幸之助氏が申されたといわれる

「嫉妬は万有引力のようなもので、誰もそれから離脱できない」

との名言が胸に染み入る今日この頃であるが、谷沢永一氏は、

「人間の最も強烈な情念は嫉妬です」

と御高著で断言しておられるのである。
ラベル:肝気鬱結
posted by ヒゲジジイ at 09:21| 山口 | 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月15日

瘀血阻滞(おけつそたい)とその形成原因

瘀血阻滞(おけつそたい)とその形成原因

村田恭介が製品開発を指導した「生薬製剤二号方」の理解のために

 本論は、もともと月刊「和漢薬」誌の513号(1996年2月号)の巻頭論文として、『丹参製剤 生薬製剤二号方』として執筆した論文中の一部をピックアップしたに過ぎません。

 しかしながら、当時「瘀血阻滞」、俗に言う「ふるち」の形成原因を出来るだけ詳細に分析・考察するために、中医学理論の中国語原書を広く漁って、纏め上げた部分ですので最も力が入った部分でもあります。

 「瘀血」に関するこれだけの知識を有機的に活用出来るように工夫すれば、生薬製剤二号方をフル活用できるであろうと考えて、挿入した理論部分という訳です。

 生薬製剤二号方を解説する論説文中では、通読するには一番肩が凝る部分でもありますが、かといって、ここを避けていたら低レベルの指南書となっていた筈です。

 瘀血阻滞に対する詳細な分析を、かなり短い文章で要約して述べてありますが、内容は相当に濃縮してあり、これだけを熟知しておれば、生薬製剤二号方に限らず、あらゆる活血化瘀の方剤を有機的に応用するための基礎知識として有用であると思われます。

 血は脉中にあって絶え間なく運行し、循環して休まず、五臓を調和し、六腑に行き渡り、百骸を営養する。

 血液は心気の推道・肺気の宣降・肝気の疏調・脾気の統摂・腎陽の温煦という五臓の協同作用が必要で、これによってはじめて停滞や外溢を生じることなく、脉中を正常に運行することが出来ます。

 とは言え、血行不利や瘀血という病理変化については、心肝の二臓との関係がより密接です。

 心は全身の血脉を主り、肝は蔵血の臓器だからですが、より深く考察すれば、心が主る脉は肝が主る筋膜によって構成されるので、「瘀血阻滞」は究極的には肝の病変と考えるべきでしょう。

 瘀血形成の原因は多種多様ですが、以下に主要なものを記します。

 @寒邪の侵襲により、血が冷却されて凝滞する(寒凝血瘀)。
 内に久寒がある場合も同様です(陽虚血瘀)。

 A熱毒や邪の熱化から気営両燔し、営陰に侵入した熱が血を煮詰めて熱盛傷陰や、汗による津液の消耗により営陰が損傷されると、血液が粘稠になって運行不利を生じ、血管壁に瘀血を形成する(熱盛血瘀)。

 B陰液の虧損により、血脉が濡潤されないために、血がスムーズに運行できなくなって瘀滞する(陰虚血瘀)。

 C心気不足や心陽虚衰による推動無力、あるいは肺気虚損や肺寒による昇降不足および助心行血の機能低下、あるいは腎気不足や腎陽虚衰による動力欠乏は、いずれも血流を緩慢にさせる。
 遷延すると虚によって鬱を生じ、気鬱血滞から瘀血を形成する。
 これらのことから、気虚血渋・気鬱血滞の「気虚血瘀」と、これに血の冷却による凝滞を伴った「陽虚血瘀」の病機の存在を類推し理解することが出来るはずです。
 (気虚も陽虚も各臓に見られますが、気虚は肺・脾に重点があり、陽虚は脾・腎に重点があります。)

 D肝の疏泄失調により、気滞血瘀を生じる。

 E痰湿阻滞による気機失調が発展して気滞血瘀を生じたり、痰が直接血流を阻害して瘀血が形成され、瘀血は水道を阻害して痰濁を誘発する(痰瘀交阻)。

 F打撲・外傷など、血隧の異変により、気行や血行が阻害される(跌打損傷)。

 G血溢脉外により、出血が瘀滞する。血熱妄行や脾気虚の統摂不能による血溢などがあります。

 このように、瘀血は多病から誘発される二次的な病理産物であることが多く、それゆえ活血化瘀の薬物だけでは根本解決にはならず、それぞれの瘀血形成の病機(根本原因)に対する方剤の併用が必要となることが多いわけです。

 また、瘀血が除去されないと新血が生じにくいため、遷延すると血虚を伴いやすい。
 それゆえ、活血化瘀薬を多用するとますます陰血を損耗しやすくなるため、補血・補陰の薬物の配合が必要となることも多い。

 さらに強調しておきたいことは、瘀血の形成は究極的には必ず多かれ少なかれ気滞を伴っており、あるいは気滞が直接的な原因となって形成されることが多く、気滞を伴うだけに多かれ少なかれ必ず「痰濁」を伴っているということです。

 また、瘀血は気機を阻害して気滞を増長させ、気滞と瘀血が悪循環を形成しやすく、水道を妨害して水湿内停を誘発して浮腫や痰濁を生じさせるなど、多端な病変を誘発します。
 つまり、瘀血を治療せずにいつまでも遷延させると痰濁を増長させ、また痰濁は血流を阻害して血瘀を増長させ、一方では次第に正気を損耗させるなどにより、胸痺や中風のみならず悪性腫瘍の発生原因となるなど、複雑多変で難治な病変を誘発し兼ねないわけです。

【主要参考文献】

@「中医学」(顔正華主編 人民衛生出版社)
A「中医病機治法学」(陳潮祖著 四川科学技術出版)
B「中医病理」(広東科技出版社)
C「血瘀証的診断和治療」(兪芝江編著 上海中医学院出版社)
D「痰瘀相関学説与臨床」(于俊生編著 科学技術文献出版社)
E「基礎中医学」(神戸中医学研究会編著 燎原)
F「今日の中医診療指針《内科編》」(久米正太郎・趙基恩共著)
G「実用中医内科学 日本語版」(東洋医学国際研究財団)
H「現代中医内科学」(何紹奇主編 中国医薬科技出版社)
I「方儀図解 臨床中医方剤」(王元武・赤堀幸男共著 医歯薬出版株式会社)
J「中医臨床のための方剤学」(神戸中医学研究会編 医歯薬出版株式会社)
K「中国大百科全書 中国伝統医学」(中国大百科全書出版社)
ラベル:瘀血
posted by ヒゲジジイ at 09:30| 山口 ☁| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月13日

注意が必要な漢方薬(肺陰を損傷しやすい漢方処方)

地球温暖化と暖房設備充実の時代、連用を慎むべき漢方薬類

 村田漢方堂薬局における37年間にわたる薬剤師2名による漢方相談販売の経験上から、肺陰を損傷しやすい漢方薬方剤や漢方薬物についての考察です。
 たとえば、小青竜湯や附子配合のいわゆる附子剤、とりわけ八味丸類の問題です。
 のみならず、藿香正気散(かっこうしょうきさん)という村田漢方堂薬局の愛用方剤でも、肺陰の損傷を警戒して長期の連用は避けるべきです。

 肺は嬌臓(脆弱な臓器)です。日本漢方では、「乱用気味」と言っても過言ではない「小青竜湯」や「八味丸」など、連用するに際しては注意が必要な漢方薬方剤であることを認識して頂きたいものです。

 なかでも小青竜湯に関しては、上記の藿香正気散とは比較にならない厳重注意が必要な漢方処方ですので、ブログに掲載した実例などの問題があるので、素人療法は厳に慎むべきです。

 医師や薬剤師であっても漢方薬についてはほとんど素人さんとかわりがないレベルの先生方があまりに多いので、医師に処方されたからと言って安心とは限りません。

参考文献:
※耳鼻咽喉科で処方された小青竜湯による副作用
※耳鼻咽喉科で処方された小青竜湯による副作用の続報
※小青竜湯の長期連用による副作用
※高齢者に要注意の小青竜湯(副作用の認識がない医師たち)
※小青竜湯連用によって生じた乾燥性の咳
※小青竜湯と麦門冬湯のどちらでも良いと医師に言われながら出された小青竜湯に疑問をお持ちの親御さんからのお問合せ
※小青竜湯誤投与の典型例
※タミフルと共に医師から処方された禁忌に近い危険な配合、麻黄細辛附子湯と小青竜湯
※小青竜湯で副作用が生じるのは医師の乱用が問題である
※小青竜湯は長期連用には向かない
※やっぱり長期連用には不向きな小青竜湯

 ともあれ以下の本論は専門家向けです。

 もともと例によって『和漢薬』誌連載の『中医病機治法学』の訳注における「訳者のコメント」中にバラバラに書き散らしていたものをまとめ上げ、現在の考察を加えたものです。


◆肺は嬌臓(きょうぞう)であるということ

燥性の方剤に潤燥薬「麦門冬」を配合する意義
 日本は湿潤な風土の上に、脾湿が内生しやすい食生活環境にあるので、潤燥法が必要なときにも、常に挟湿や脾運に対する配慮が必要である。
 また、これとは逆に燥湿・袪痰・行気・解鬱などを必要とするとき、大量の燥性の薬物中に一味の潤燥薬「麦門冬」を配合する意義は大きい。

 柴朴湯や半夏厚朴湯に麦門冬一味を加える必要性を示唆した拙文を、ちょうど二十三年前の『和漢薬』誌340号に「中草薬漫談(5)麦門冬」と題して述べて以来、喘息に対する柴朴湯加麦門冬については、すでに日常茶飯事の常識的なテクニックとして定着している。

 臨床上、わずか一味の麦門冬の有無により、効能に雲泥の差が生じ得ることは、看過すべからざる現象である。

 《顧氏医鏡》で指摘されているように、肺は嬌臓(脆弱な臓器)であり、寒に対しても熱に対しても抵抗力に乏しく、さらには湿に対しても、また燥に対しても抵抗力に乏しいので、麦門冬一味によって大量の温燥薬の行き過ぎによる肺陰の損傷を未然に防止し、肺陰を保護するのである。

 同様に、日本で繁用される補気建中湯・補中治湿湯のみならず、釣藤散などにおける麦門冬配合の意味を詳細に検討すれば、先人の用薬配合上の工夫を汲み取ることができるはずである。

 肺は気を主(つかさど)り、水道を通調するという二つの重要な働きを持ちながら、実体は極めてデリケートな臓器であることを充分に認識し、常に肺の実体である肺陰の保護を忘れてはならないのである。


◆風邪や鼻炎が生じやすい中医学的原因

だからといって小青竜湯を乱用してよいわけがない。肺は嬌臓!

 肺は呼吸を司り皮毛に合しているので、外邪の侵襲を最も受けやすいく、寒・熱・燥・湿いずれの刺激に対しても抵抗力が乏しい。
 感冒や鼻炎など、肺系統の疾患が日常的によく見られるのはこのためであり、またそれゆえに「肺は嬌臓」であるといわれるのである。

 それゆえ、辛温燥の性質が特に強烈な小青竜湯などを慢性疾患で連用するときには要注意である。たとえ「証」がピッタリであっても、決して過信してはいけない。
 短期間の使用なら問題も生じにくいが、少量の麦門冬や石膏を加えるなどして肺陰のみならず肺熱に対する配慮は不可欠である。
 定期的な確認が必要な漢方薬方剤であることを充分認識する必要がある。

 エキス剤の場合であれば、麦門冬湯や猪苓湯を適量併用することでも充分代用できる。
 猪苓湯中の阿膠によっても肺陰を保護することができ、茯苓には補肺作用もあるからである。


◆乱用され過ぎる「小青竜湯」と「八味丸」

アレルギー性鼻炎に小青竜湯トイレが近ければ八味丸確かに有効だが

 アレルギー性鼻炎には小青竜湯、クシャミ・鼻水には小青竜湯などと喧伝され、病名漢方として定着したかの感があり、一般病院や医院から咳が出れば小青竜湯、クシャミはもちろん鼻水もと、保険漢方で出されて証が合っていないために、肺陰を損傷して乾燥咳が却って悪化してガラガラ声になり、どうしようもなくなって村田漢方堂薬局に助けを求めにやって来られた人が何人いたことか。

 麦門冬湯で治まった人が多いが、肺熱まで誘発して小陥胸湯加減方製剤に辛夷清肺湯を合方しなければ治まらない人すらある。

 八味丸や牛車腎気丸も同様で、辛燥大熱の附子の配合が、肺陰を損傷するばかりでなく、同時に肺熱まで誘発して小青竜湯の場合と同様の処置が必要なことすらある。

 これらの乱用としか思えない出され方は、意外に同業の漢方専門薬局はもちろん、一般薬局でさえ、あまり遭遇しないで、殆どのケースが病院や一般診療所から処方されたものであるから、たまらない。言葉は悪いが、それらの尻拭いをいつもさせられているのは、我々漢方相談薬局なのである。
 
 これらの事実は、若い頃には遠慮があって「決してこの事実は口が裂けても公言できない」と思っていたが、そろそろ晩年に向かって行くにあたって、言うべきことを言っておかなければ、世の中のためにならないと愚考し、ありのままの事実を述べるのである。

 自分の子供たち二人も医者になっているばかりでなく、その配偶者も医者、親類縁者も医者だらけなのだから、何を遠慮することがあろうか。

◆辛温薬配合方剤の長期連用は慎重であるべし

小青竜湯や八味丸類・藿香正気散類は長期連用はできない場合がある

 これまで、あまりにも乱用されすぎた小青竜湯は、麦門冬湯や辛夷清肺湯が適応するような肺胃陰虚や肺陰虚に肺熱を兼ねるような証候を呈している患者さんに、辛温の細辛のみならず、本来は乾燥生姜および桂枝を用いるべきところを、日本の小青竜湯は辛燥温性の煨姜もどきや肉桂が配合されているので、なおさら肺陰虚を助長するのみならず、肺熱をさらに助長して、極端な乾燥咳とともに喀血まできたしかねないのである。

 もともと、小青竜湯は標治の方剤であるから、長期の使用は慎むべきであるが、適応外の人に投与すると、上記のような現象が起こっても不思議ではないのである。
 病院でもらった小青竜湯を、飲めば飲むほど声が枯れてきて、却って咳がひどくなったようだということも稀ではない。

 八味丸にしても、辛燥大熱の附子が配合されているので、昨今リバイバルしたのか、夜間多尿に八味丸系統の製品がテレビなどで宣伝されているようである。
 最近も、薬局で相談して買ったおかげで、確かに尿の回数は減ったがいっぺんに不眠症になり、毎晩目が覚醒して軽い煩躁状態を呈しているという。
 明らかに附子の軽度の副作用が認められるもで、即刻中止してもらい、附子抜きの「七味丸」に切り替えてもらった。

 もちろん、八味丸は重要な基本方剤ではあるが、腎陽虚が明らかでなければ使用すべきではない。
 肺陰を損傷して乾燥咳を誘発することも、稀ではない。
 長期連用にも定期的な確認が必要で、「肺は嬌臓」であるということを忘れてはならないのである。

 また、辛温香走の薬物が多く配合された藿香正気散は、湿困脾胃の病機に対する理気化湿の方剤として大変有用で、アレルギー性鼻炎などの一見、肺寒停飲の小青竜湯証と見られる場合でも、麻黄が不適応の患者に、苓甘姜味辛夏仁湯の煎薬やエキス剤が手元に無いとき、充分代用できることが多く、胃腸虚弱者には持って来いの方剤ではある。

 ところが幸か不幸か本方の「乾燥性」は相当な威力があり、本方証に間違いないときでも、症状が軽快した時点で中止するほうが望ましい。

 たとえば、クーラー病による頭痛に、シャープに奏効してそのまま夏中一ヶ月も連用していたら、ひどい嗄声を生じた例がある。
 直ぐに中止してもらい、麦門冬湯で速やかに回復したものの、本方の燥湿力は相当なものである。

 村田漢方堂薬局では、常連さんたちと「便利な乾燥剤」として有名な処方となっているが、本方の適応する証候(一連の症候)が解消した時点で直ぐに中止すべき方剤としても「常連さんたちの常識」となっている。

 このように、小青竜湯や附子剤、あるいは藿香正気散のような、日常的によく使われる方剤の使用は、「肺は嬌臓」であるということに留意して、乱用は慎むべきなのである。

 合成医薬品の副作用に比べると「かわいいもの」と言えばそれまでだが、明らかに適応症ではないのに誤治した場合の不快症状は、上記に述べたとおり相当なものなのである。
posted by ヒゲジジイ at 12:02| 山口 ☁| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月24日

五臓の損傷は極まると必ず腎に波及する

 他臓の病変が腎に波及することは臨床上、大変よく見られることであるが、張景岳が述べた「五臓の損傷は極まると必ず腎に及ぶ」というのはこのことを指している。

 五臓の損傷が最終的にはいずれも腎に及ぶ理由は、気血陰陽の生化・輸運に直接関連している。

 気について言えば、肺は呼吸を司り清気の摂取を主る。

 脾は運化を司り穀気の生化を主る。

 腎は元気の根本{「先天の精」を蔵する}で生命活動の源泉である。

 元気は「先天の精」より生じ、元気を持続するためには常に「後天の精」による補充を必要とする。

 すなわち清気・穀気・精気{元気の根本である腎の精気のこと}の三者が合して元気となり、三焦を経由して五臓に輸注し、最終的には五臓の機能活動の動力源となる。

 このため肺・脾の気が虚すと元気が衰え、最終的にはいずれも腎の気化機能に影響して腎気虚損を引き起こすことになる。

 血について言えば、心は行血し、肝は蔵血し、血は腎が主る髄から化生する。心・肝の血が消耗すると腎の主る骨髄に波及して腎精の虧損を引き起こす。

 さらに陰陽について言うと、腎は水を主る臓であり、元陰元陽{腎陰腎陽}の根である。

 五臓は腎陰の濡潤によってはじめて正常な機能活動を行うことが出来る。

 このため、どの一臓が陰津虧損した場合でも直接腎陰を損傷することになる。

 五臓はまた腎陽の温煦を必要としており、それによってはじめて気血津液の生化輸泄・昇降出入を全うすることが出来る。

 このため、どの一臓の陽気が虧損した場合でも直接腎陽を損傷することになる。

以上、主として陳潮祖著「中医病機治法学」中の腎系統の発病の原因に基づく

 現実的な問題として慢性疾患が長期に渡ったため腎に影響が及んでしまった症例は臨床的によく見られるもので、以上の論述も中医学においてはかなり常識的な見解であるから十分に理解しておく必要があろう。

 また、この点についての見解では張瓏英先生著作の「臨床中医学概論」(自然社発行、緑書房発売)にも各所で具体的に述べられており、実際の臨床における治療指針となる論述が多いので、是非参照されたい。

補足: 腎精は常に水穀精微(臓腑の精)により、精(体内貯蔵栄養物質)として補充され、そして貯蔵されるものである。

たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ
posted by ヒゲジジイ at 06:56| 山口 ☁| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月16日

脾胃との関連が最も深い湿邪と痰濁

 湿邪は陰邪であり、粘膩・粘滞な性質を持つためなかなか除去し難く、全身各所の特定の部位で停滞しやすい。

 脾胃は水穀の海であるから湿邪の影響を最も受けやすい。

 湿邪は外湿と内湿があり、外湿は外来の湿邪による病変を指し、内湿は脾虚不運湿による体内から生じた湿邪の病変を指す。

 外湿と内湿の関連性は深く、脾虚不運湿は外湿を招来する誘因となり、外湿が除去されなければ脾が損傷されて内湿を誘発する。

 湿邪は他の邪と合併することが多く、風邪や寒邪とともに経絡に侵入して痺証を形成したり、寒邪を伴う寒湿の病証や、熱邪を伴う湿熱の病証を形成し、なかでも湿熱の病証が比較的よく見られる。

 痰濁は脾胃を中心とした臓腑の機能失調から生じた病理的産物であり、言い替えれば病理的に生じた体内の廃液や廃物である、ということである。

 生態内におけるこれらの病理産物の残留は、さらに新たな臓腑の機能失調を誘発し、複雑・難治な疾病を生じる原因となる。

 痰濁は人体の代謝失調によって生じた有害物質であり、各種の公害物質やコレステロール・脂肪類までをも包括しており、また「痰瘀相関学説」があるように瘀血とも交結しやすく、複雑多変で難治な疾患へと発展しやすいのである。
たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ
ラベル:湿邪 痰濁
posted by ヒゲジジイ at 08:50| 山口 ☁| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月08日

脾胃はすべての疾病と関連する

 「脾胃は中土に居す」と言われるように、脾胃は五臓系統の中で最も中心的で重要な部分である。

 他臓についても五臓間の整体関係から同様な表現が可能であることは言うまでもないが、脾胃系統については、特に強調しておく必要がある。

 すべての疾病の基本構造は「気血津精(精気血津液)の昇降出入の異常と盈虧通滞」と言え、五臓の生理機能はいずれも気血津精の生化輸泄(生成・輸布・排泄)と関係がある。

 気血津精に過不足(太過や不及)が生じたときが病態であり、五臓間の相生・相克関係は、気血津精の生化輸泄の状況に直接関与している。

 この疾病の基本構造にもとづいて考察すると、脾胃は中焦に位置して五臓の気機が昇降するための中軸であり、他のすべての臓腑と極めて緊密な関係があるので、脾胃に病変が発生すると他の臓腑に容易に波及し、他の臓腑に病変が生じると脾胃に容易に波及する。

 また、五臓六腑は機能活動を維持するために、精気血津液を基礎物質として必要としており、脾胃が納運する水穀精微は精気血津液を生成する基本的な源泉であるから、脾胃と精気血津液の摂納・生成・輸布・排泄とは密接な関係がある。

 それゆえ、脾胃に病変が発生すると他の臓腑に容易に波及し、他の臓腑に病変が生じると脾胃に容易に波及するのである。

 ※他臓の疾病に脾胃の論治が必要な場合の参考例

 眩暈を主訴とする肝病に対して半夏白朮天麻湯が適応するとき。

 口内炎を主訴とする心病に対して半夏瀉心湯が適応するとき。

 浮腫を主訴とする腎病に対して分消湯や補気建中湯が適応するときなどがある。

 ※逆に、脾胃の疾病に他臓の論治が必要な場合の参考例

 嘔吐を主訴とする疾病に対して腎系統の治療薬である五苓散が適応する場合や、あるいは肝胆系統の治療薬である小柴胡湯が適応するとき。

 下痢を主訴とする疾病に対して腎系統の治療薬である真武湯や五苓散が適応するときなどがある。

たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ
ラベル:脾胃
posted by ヒゲジジイ at 00:01| 山口 ☀| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月27日

少陽三焦とは、膜原と腠理から構成される機能体である

 新型コロナウイルスに感染すると、少陽病期の症状に対する配慮が重要である。それゆえ、特に注意を払うべきは、少陽三焦に対する理解がなければ、適切な方剤を見出すことができない。

 そこで過去、拙著の中から関連部分を引用して参考に供したい。
膜原と腠理 (まくげんとそうり)
 少陽三焦とは、陳潮祖教授が御高著で指摘するように、膜原と腠理から構成される機能体を指している。そしてこれらは肌表、五臓六腑、四肢百骸の各組織と連絡し、津と気が昇降出入する交通路となっているものである。
膜原と腠理
膜原(まくげん)は臓腑や各組織器官を包み込む膜のこと。
腠理(そうり)とは、膜外の組織間隙のこと。

 もっと詳細に述べれば、腠理というのは、皮膚・肌肉・筋腱・臓腑の紋理や間隙などの総称であり、皮腠・肌腠・粗理・小理などに分けられる。腠理は体液のにじみ出る所であり、気血が流通する門戸であり、外邪が体内に侵入するのを防御する働きがあるなどと解釈されるのが一般であるが、

 下線部の「気血が流通する」とい点については疑義があり、「気津が流通する」というように、気と津に限定すべきだと愚考する。血を全面的に含めてしまうと、あまりにも流通物質が拡大し過ぎるので、主として気と津とにある程度限定的に捉えたほうが合理的であろう。

 ともあれ三焦とは、膜原と腠理から構成される機能体を指しているわけだが、これらは肌表・五臓六腑・四肢百骸の各組織と連絡し、津と気が昇降出入する通り道である。

 そしてこの膜原と腠理はまた、肝が主る筋膜組織に属するものであるから、疏泄を主る肝との関係は大変密接なものである。それゆえ、肺気・脾気・腎気ばかりでなく肝気も加わって、主にこの四臓の機能が協力して実現される「津気の運行」が実際に行われている区域こそ、膜原と腠理から構成される「少陽三焦の腑」としての実体なのである。
 と同時に、これら肺脾腎肝が協力して行う津気運行の働きのみを取り出して概括したものがすなわち「少陽三焦の機能」の実体である。
膜原と腠理(まくげんとそうり)より
たまには、応援のクリックお願いします!日本ブログ村へ
posted by ヒゲジジイ at 10:48| 山口 ☁| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月22日

肝経虚寒に対する温肝袪寒法について

肝経虚寒に対する温肝袪寒法の考察
                         村田恭介

●寒滞肝脉と肝陽虚について

 寒邪直中による肝経の病変は、一般的には「寒滞肝脉」と言われ、肝自身の陽虚は「肝陽虚」とも表現される。

 肝陽虚証は、虚によって寒が生じる虚寒証に属し、寒滞肝脉証は寒邪によって病変を生じ「実寒」が主となるので、虚実に違いがある。とは言え寒滞肝脉は、陽気不足で陰寒内盛傾向のある者に好発するので、(肝)陽虚体質との相関関係は無視出来ない。

 つまり、寒滞肝脉証においては、寒邪外犯(この場合は寒邪の直中)による肝経の寒凝気滞という「邪実」の証候と、陽虚体質者における陰寒内盛による寒凝肝脉という「虚寒」の証候の二種類の状況が、常に併存し得ることも考慮しておく必要がある訳である。

 さらに注意すべきは、寒凝によって生じた気滞や血瘀は、遷延すると次第に「化熱」が生じ得るということである

●膠原病に対する応用経験

 筆者(村田恭介)が最近遭遇したものでは、専門医による諸検査で全身性エリテマトーデスの疑い濃厚な十八歳の女性の相談を昨年五月に受けた。 秋・冬・春に手足のレイノー現象が顕著で、顔面の蝶形紅斑が著しい。舌体はやや小型・舌質はやや紅で殆ど無苔。一連の症候に基づいて温経湯に地龍を加えた方剤を投与。(レイノー現象が顕著であった昨年五月・六月および季節的な予防として本年一月・二月のみ当帰四逆加呉茱萸生姜湯のエキス製剤を併用。)これにより、自覚症状の順調な緩解とともに、毎月の検査も抗核抗体1280から翌月には640、その翌月にも320という調子で次第に正常化し、一年後の五月現在はレイノー現象は基本的に消失し、顔面の蝶形紅斑も殆ど消失し、最終的には80に安定して諸検査のみならず自覚症状においても緩解状態を持続している。

 このように、病院のステロイド剤による治療は絶対に避けたいという患者の両親および本人の強い希望があり、病院は検査のみ、治療は訳者の漢方のみで対処することとなったものであるが、比較的単純な方剤運用にもかかわらず、充分な成功をおさめている例である。

 「温経湯」は、衝任虚寒・寒滞肝脉と共に陰虚・血虚・気虚・血瘀が併存する証候に適応するので、肝経虚寒に対する温肝袪寒法の代表方剤の一つとも言えるものである。

●膠原病と肝経虚寒の内在関係について

 最近また、「混合性結合組織病」と診断された三五歳の婦人。某病院における昨年七月の検査では、抗核抗体 1280以上、抗RNP抗体 256以上で、レイノー現象がみられることがら、右記の診断結果が出されている。その他、血沈が65、CRP(一)、白血球3810、赤血球383万、ヘモグロビンは11、血小板20.6万、尿蛋白(一)、尿潜血(2+)、尿糖(一)、GOT36、BUN10、クレアニチン〇・4、血糖84、総蛋白9.2など。

 本病を自覚した初期は三年前の冬からのことで、手の強張りと両肩関節部の疼痛が強く、病院から出されるボルタレンで治療していた。本病の診断が下った昨年は、手足のレイノー現象とともに膝関節部の微熱感を伴う疼痛が激しく、顔面に軽度の紫がかった蝶形紅斑があり、午後から三七度を越える微熱が持続していた。昨年十月には、膝の屈伸困難となり、本年二月まで断続的に病院から出されたステロイド類を継続服用して少し軽快していたが、昼間は微熱程度なのに、夕方から夜にかけて39度の発熱が始まり、膝関節の疼痛も再び増悪したので病院治療をすべて中止。

 現症は、近くの薬局に相談し桂枝加朮附湯エキス錠を購入して、二週間の服用で膝関節の疼痛はかなり軽快するも、疲労感が激しく夜間の高熱は不変、毎日の通勤がとてもつらい状態である。舌質は淡紅で裂紋が多く無苔であるが、常に「骨の髄からの寒気」を感じ、寒い日や曇天で関節痛が悪化。

 常連の患者さんに紹介されて筆者の漢方を求めて来られたものの、昨年七月の検査時よりも明らかに増悪しており、当然諸検査もかなり悪化しているものと考えられる。病院に行けば即刻入院を宣告されてもおかしくない重篤な状態に近いので、もしも漢方治療で効果が少なければ、時を移さず診断を受けた病院に戻るべきことを告げ、三月七日に独活寄生湯加地龍をエキス製剤で一週間。

 これによって夜間の発熱が38度代になるも、食欲不振が激しいので、更に生脉散料エキス製剤を追加する。

 著効を得て食欲が完全に回復し、夜間の発熱も日によって37度代から38度代となる。ところが、三月二一日からは忠告を無視して生脉散を殆ど中止。独活寄生湯加地龍のエキス製剤のみを継続服用中であるが、幸いなことに生脉散の散発的な併用だけでも夜間の発熱は次第に消退。最近は独活寄生湯加地竜のみであるが、四〜五月現在は完全に平熱となり、膝関節痛・レイノー現象などの諸症状も基本的に消退している。

 独活寄生湯は、「外傷於湿に対する袪風除湿法」の方剤でもあるが、病機は肝腎両虚・風湿痺、治法は補虚宣痺とされるだけに、多少とも肝経虚寒の証候が内在している筈である。

 膠原病の病因病機は複雑多変であるから、安易なコメントは差し控えたいが、敢えて愚見を述べれば(当然、風寒湿邪などの外邪侵襲の有無や、各臓腑・基礎物質などに対する基本的な弁証分析を行う前提条件のもとで)、本病ではレイノー現象における肝経虚寒証との関連、寒滞肝脉や肝陽虚との直接的な関係に注目してみることも必要ではないかと愚考しており、併せて寒凝によって生じた気滞や血瘀は、遷延すると次第に「化熱」が生じ易いという観点は、かなり重要な弁証ポイントであるように思われるのである

 これらの愚見に基づき、一人は温経湯加地竜で緩解し、もう一人は独活寄生湯加地竜で緩解するなど、殆ど単一方剤で成分含量の低い製剤でも、比較的短期間で著効が得られたことは、既述の通りである。

 なお、蛇足ながら複雑な配合を必要とした膠原病では、強皮症の二〇代の未婚女性で、レイノー現象はそれほど顕著ではないが、独活寄生湯・防已黄耆湯の各エキス製剤に玉金・田七人参を併用して数年間、これら漢方製剤のみの連用で軽快している例がある。

 また、ステロイド剤を多年継続服用中の皮膚筋炎の五〇代の女性では、レイノー現象も顕著で、鬱病とメニエール症候群・高血圧症などが合併しているため、〇〇丸・生薬製剤二号方・田七人参・四逆散・半夏白朮天麻湯・釣藤散などの各製剤の多剤併用となってしまった。これら各種漢方製剤の数年以上連用で医師の指示によりステロイドも極端に減量でき、鬱病・メニエール症候群のみならず皮膚筋炎自体も緩解状態に持ち込めている例などがある。

●附録<陳潮祖著『中医病機治法学』より>

温肝袪寒法を採用する代表的方剤は、以下の通りである。

〔一〕当帰四逆湯(《傷寒論》)

 【組成】 当帰 細辛 通草 芍薬 甘草 大棗 桂枝

 【用法】 水煎し、一日三回に分けて温服。

 【病機】 寒傷厥陰・血脉凝滞。

 【治法】 温経散寒・調営通滞。

 【適応証】 (1)寒邪が厥陰を損傷して血脉が凝滞し、手足が冷え、脉が細で今にも途絶えそうなもの。

 (2)腹中の左や右に冷える部分があるのを自覚し、あるいは腰から股にかけて、ある

いは身体や足などが冷えるのを自覚し、病歴が五〜十年に亘って治癒しないもの。

 (3)婦人の血気痛にして、腰腹拘攣する者を治す。経水不調、腹中攣急し、四肢酸痛し、或は一身習々として虫行するが如く、日に頭痛する者を治す。〔《類聚方広義》〕

 (4)寒湿在表により、肢体が麻痺・疼痛するもの。

〔二〕当帰四逆加呉茱萸生姜湯(《傷寒論》)

 【組成】 当帰 細辛 呉茱萸 通草 桂枝 芍薬 炙甘草 生姜 大棗

 【用法】 適量の酒と水を加えて煎じ、滓を除去したものを五回に分けて温服。

 【病機】 寒傷厥陰・気血凝滞。

 【治法】 温経散寒・調営通滞。

 【適応証】 (1)当帰四逆湯証があり、胸満・嘔吐・激しい腹痛などを伴うもの。

 (2)霍乱多寒〔寒証の急性吐瀉病〕で手足が厥冷し、脉が微で途絶えそうなもの。

 (3)疝瘕[せんか]の諸証で、腹痛があり包塊が隆起して聚散〔出没〕を繰り返すもの。

 (4)産婦の悪露がいつまでも止まらず、身体の熱感・頭痛・腹中冷痛・嘔吐・軽い下痢・腰脚がだるく痺れたり軽度の浮腫がみられるもの。

 (5)宿飲〔寒飲〕が中焦に停滞することによる吐酸〔酸っぱい水の嘔吐〕・呑酸〔胸やけ〕などの症状、あるいは冷気が衝逆して心下に迫り胸脇を攻めるために生じる乾嘔や涎沫の吐出、あるいは嘔吐・下痢、あるいは腹痛、あるいは転筋〔こむらがえり〕、あるいは婦人の積冷血滞により月経期間が短く量も少ない・腹部がひきつり拘攣し心下〔胃📠部〕や脇下に波及することもある・肩背強急〔肩や背が強張る〕・頭や項部が重く痛むなどがみられ、手足の冷えと微細の脉を伴うもの。

 (6)小児の走腎〔睾丸の遊走〕で、腹痛のために泣き止まず、睾丸が陰嚢部に存在しないもの。

 (7)縮陰証〔男子は陰茎・陰嚢の収縮、女子は恥丘の収縮〕。

〔三〕呉茱萸湯(《傷寒論》)

 【組成】 呉茱萸 生姜 人参 大棗

 【用法】 水煎して一日三回に分け、微温で服用。

 【病機】 肝胃虚寒・濁陰上逆。

 【治法】 温肝降逆。

 【適応証】 肝胃虚寒による乾嘔・よだれやつばきの吐出・頭頂部痛・胃脘部や腹部の疼痛・舌質は淡・舌苔は白滑・脉は弦遅。

〔四〕暖肝煎(《景岳全書》)

 【組成】 肉桂 小茴香 沈香 生姜 茯苓 当帰 枸杞子

 【用法】 沈香をすり潰して粉末にし、他薬を水煎して滓を除去した液で、沈香末を冲服する。

 【病機】 肝寒気滞。

 【治法】 温肝解鬱・行気止痛。

 【適応証】 肝寒気滞による下腹部の疼痛・疝気〔腹部内臓の脱出・ヘルニア〕など。

〔五〕天台烏薬散(《医学発明》)


 【組成】 烏薬 木香(炒)一五g小茴香(炒) 青皮(白身を除去) 良姜(炒) 檳榔子 川楝子 巴豆

 【用法】 先ず巴豆を少し打ち砕き、川楝子と一緒に麸で炒って黒変させ、巴豆と麸を除去し、他薬とともに細末に製し、毎回三gを温酒で服用する。

 【病機】 寒凝気結。

 【治法】 温肝解鬱。

 【適応証】 (1)寒疝〔下腹部・陰嚢・睾丸などの疾病により生じる急性腹痛で、寒冷を誘発原因とするもの〕で、肝経気実・気滞寒凝により睾丸に放散する下腹部痛・脉は沈遅あるいは弦・舌質は淡・舌苔は薄白。

 (2)寒気の凝結による腹痛・月痛経。
たまには、応援のクリックお願いします!にほんブログ村 健康ブログ 漢方へ
posted by ヒゲジジイ at 06:50| 山口 | 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月20日

穀精と腎精について

中医学基礎:「精」−穀精と腎精について

   「精」− 穀精と腎精について 村田漢方堂薬局 村田恭介著

 飲食物を消化吸収した後に生成される「水穀の精」(穀精)は「後天の精」であり、精気血津液における精であると同時に、気血津液を生成する基本原料でもある。つまりは各臓腑の機能活動の物質的基礎であるから「臓腑の精」ともいわれる。

 さらに、この「後天の精」は、腎に貯蔵される「先天の精」という生命活動の源泉を絶えず補充し、人体の生命活動を維持する基礎物質でもある。五臓六腑を充盈した後は腎に貯蔵されることになるが、一般的には、この腎に貯蔵される精(腎精)を「精気血津液」という基礎物質における「精」であるとされている。

 しかしながら、ものの順序として、まずは飲食物を消化吸収した後に生成される「水穀の精」が、精気血津液における精(穀精)であり、つぎに穀精の一部が腎陽の気化作用によって腎精と化し、腎に貯蔵されることになったものも同様に、精気血津液における精(腎精)である、と認識すべきであろう。

 このように、穀精と腎精をともに包括したものが「精気血津液」における「精」の意味であるはずであるが、この「穀精」の概念については、基礎理論面では考察されても実際の臨床面においては、比較的看過されがちのように思われる。

 「穀精」の概念の臨床的意義は大きく、とりわけ「穀精不足」の病態の明確化は不可欠である。腎精不足は言うまでもなく各種の補腎薬が適応するものであるが、いっぽう「穀精不足」については、少なくとも脾虚の病態に関連し、補中益気湯・参苓白朮散・四君子湯などが適応することが多い。

 穀精と腎精の概念は、脾と腎の密接な関係を深く掘り下げて考察し、具体的な病態認識を行う上で極めて有意義であり、合理的で整合性のある弁証論治の内容を、さらに充実拡大させるものであると愚考している。穀精と腎精の密接な関係を有機的に理解していれば、卑近な例として、補中益気湯合六味丸や補中益気湯合海馬補腎丸などが適応する病態を認識する上でも、極めて有意義な概念と思われるのである。
たまには、応援のクリックお願いします!にほんブログ村 健康ブログ 漢方へ
ラベル:穀精 腎精
posted by ヒゲジジイ at 11:51| 山口 ☀| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする