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2023年08月24日

五臓の損傷は極まると必ず腎に波及する

 他臓の病変が腎に波及することは臨床上、大変よく見られることであるが、張景岳が述べた「五臓の損傷は極まると必ず腎に及ぶ」というのはこのことを指している。

 五臓の損傷が最終的にはいずれも腎に及ぶ理由は、気血陰陽の生化・輸運に直接関連している。

 気について言えば、肺は呼吸を司り清気の摂取を主る。

 脾は運化を司り穀気の生化を主る。

 腎は元気の根本{「先天の精」を蔵する}で生命活動の源泉である。

 元気は「先天の精」より生じ、元気を持続するためには常に「後天の精」による補充を必要とする。

 すなわち清気・穀気・精気{元気の根本である腎の精気のこと}の三者が合して元気となり、三焦を経由して五臓に輸注し、最終的には五臓の機能活動の動力源となる。

 このため肺・脾の気が虚すと元気が衰え、最終的にはいずれも腎の気化機能に影響して腎気虚損を引き起こすことになる。

 血について言えば、心は行血し、肝は蔵血し、血は腎が主る髄から化生する。心・肝の血が消耗すると腎の主る骨髄に波及して腎精の虧損を引き起こす。

 さらに陰陽について言うと、腎は水を主る臓であり、元陰元陽{腎陰腎陽}の根である。

 五臓は腎陰の濡潤によってはじめて正常な機能活動を行うことが出来る。

 このため、どの一臓が陰津虧損した場合でも直接腎陰を損傷することになる。

 五臓はまた腎陽の温煦を必要としており、それによってはじめて気血津液の生化輸泄・昇降出入を全うすることが出来る。

 このため、どの一臓の陽気が虧損した場合でも直接腎陽を損傷することになる。

以上、主として陳潮祖著「中医病機治法学」中の腎系統の発病の原因に基づく

 現実的な問題として慢性疾患が長期に渡ったため腎に影響が及んでしまった症例は臨床的によく見られるもので、以上の論述も中医学においてはかなり常識的な見解であるから十分に理解しておく必要があろう。

 また、この点についての見解では張瓏英先生著作の「臨床中医学概論」(自然社発行、緑書房発売)にも各所で具体的に述べられており、実際の臨床における治療指針となる論述が多いので、是非参照されたい。

補足: 腎精は常に水穀精微(臓腑の精)により、精(体内貯蔵栄養物質)として補充され、そして貯蔵されるものである。

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2023年08月16日

脾胃との関連が最も深い湿邪と痰濁

 湿邪は陰邪であり、粘膩・粘滞な性質を持つためなかなか除去し難く、全身各所の特定の部位で停滞しやすい。

 脾胃は水穀の海であるから湿邪の影響を最も受けやすい。

 湿邪は外湿と内湿があり、外湿は外来の湿邪による病変を指し、内湿は脾虚不運湿による体内から生じた湿邪の病変を指す。

 外湿と内湿の関連性は深く、脾虚不運湿は外湿を招来する誘因となり、外湿が除去されなければ脾が損傷されて内湿を誘発する。

 湿邪は他の邪と合併することが多く、風邪や寒邪とともに経絡に侵入して痺証を形成したり、寒邪を伴う寒湿の病証や、熱邪を伴う湿熱の病証を形成し、なかでも湿熱の病証が比較的よく見られる。

 痰濁は脾胃を中心とした臓腑の機能失調から生じた病理的産物であり、言い替えれば病理的に生じた体内の廃液や廃物である、ということである。

 生態内におけるこれらの病理産物の残留は、さらに新たな臓腑の機能失調を誘発し、複雑・難治な疾病を生じる原因となる。

 痰濁は人体の代謝失調によって生じた有害物質であり、各種の公害物質やコレステロール・脂肪類までをも包括しており、また「痰瘀相関学説」があるように瘀血とも交結しやすく、複雑多変で難治な疾患へと発展しやすいのである。
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ラベル:湿邪 痰濁
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2023年08月08日

脾胃はすべての疾病と関連する

 「脾胃は中土に居す」と言われるように、脾胃は五臓系統の中で最も中心的で重要な部分である。

 他臓についても五臓間の整体関係から同様な表現が可能であることは言うまでもないが、脾胃系統については、特に強調しておく必要がある。

 すべての疾病の基本構造は「気血津精(精気血津液)の昇降出入の異常と盈虧通滞」と言え、五臓の生理機能はいずれも気血津精の生化輸泄(生成・輸布・排泄)と関係がある。

 気血津精に過不足(太過や不及)が生じたときが病態であり、五臓間の相生・相克関係は、気血津精の生化輸泄の状況に直接関与している。

 この疾病の基本構造にもとづいて考察すると、脾胃は中焦に位置して五臓の気機が昇降するための中軸であり、他のすべての臓腑と極めて緊密な関係があるので、脾胃に病変が発生すると他の臓腑に容易に波及し、他の臓腑に病変が生じると脾胃に容易に波及する。

 また、五臓六腑は機能活動を維持するために、精気血津液を基礎物質として必要としており、脾胃が納運する水穀精微は精気血津液を生成する基本的な源泉であるから、脾胃と精気血津液の摂納・生成・輸布・排泄とは密接な関係がある。

 それゆえ、脾胃に病変が発生すると他の臓腑に容易に波及し、他の臓腑に病変が生じると脾胃に容易に波及するのである。

 ※他臓の疾病に脾胃の論治が必要な場合の参考例

 眩暈を主訴とする肝病に対して半夏白朮天麻湯が適応するとき。

 口内炎を主訴とする心病に対して半夏瀉心湯が適応するとき。

 浮腫を主訴とする腎病に対して分消湯や補気建中湯が適応するときなどがある。

 ※逆に、脾胃の疾病に他臓の論治が必要な場合の参考例

 嘔吐を主訴とする疾病に対して腎系統の治療薬である五苓散が適応する場合や、あるいは肝胆系統の治療薬である小柴胡湯が適応するとき。

 下痢を主訴とする疾病に対して腎系統の治療薬である真武湯や五苓散が適応するときなどがある。

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ラベル:脾胃
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2020年04月27日

少陽三焦とは、膜原と腠理から構成される機能体である

 新型コロナウイルスに感染すると、少陽病期の症状に対する配慮が重要である。それゆえ、特に注意を払うべきは、少陽三焦に対する理解がなければ、適切な方剤を見出すことができない。

 そこで過去、拙著の中から関連部分を引用して参考に供したい。
膜原と腠理 (まくげんとそうり)
 少陽三焦とは、陳潮祖教授が御高著で指摘するように、膜原と腠理から構成される機能体を指している。そしてこれらは肌表、五臓六腑、四肢百骸の各組織と連絡し、津と気が昇降出入する交通路となっているものである。
膜原と腠理
膜原(まくげん)は臓腑や各組織器官を包み込む膜のこと。
腠理(そうり)とは、膜外の組織間隙のこと。

 もっと詳細に述べれば、腠理というのは、皮膚・肌肉・筋腱・臓腑の紋理や間隙などの総称であり、皮腠・肌腠・粗理・小理などに分けられる。腠理は体液のにじみ出る所であり、気血が流通する門戸であり、外邪が体内に侵入するのを防御する働きがあるなどと解釈されるのが一般であるが、

 下線部の「気血が流通する」とい点については疑義があり、「気津が流通する」というように、気と津に限定すべきだと愚考する。血を全面的に含めてしまうと、あまりにも流通物質が拡大し過ぎるので、主として気と津とにある程度限定的に捉えたほうが合理的であろう。

 ともあれ三焦とは、膜原と腠理から構成される機能体を指しているわけだが、これらは肌表・五臓六腑・四肢百骸の各組織と連絡し、津と気が昇降出入する通り道である。

 そしてこの膜原と腠理はまた、肝が主る筋膜組織に属するものであるから、疏泄を主る肝との関係は大変密接なものである。それゆえ、肺気・脾気・腎気ばかりでなく肝気も加わって、主にこの四臓の機能が協力して実現される「津気の運行」が実際に行われている区域こそ、膜原と腠理から構成される「少陽三焦の腑」としての実体なのである。
 と同時に、これら肺脾腎肝が協力して行う津気運行の働きのみを取り出して概括したものがすなわち「少陽三焦の機能」の実体である。
膜原と腠理(まくげんとそうり)より
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2018年10月22日

肝経虚寒に対する温肝袪寒法について

肝経虚寒に対する温肝袪寒法の考察
                         村田恭介

●寒滞肝脉と肝陽虚について

 寒邪直中による肝経の病変は、一般的には「寒滞肝脉」と言われ、肝自身の陽虚は「肝陽虚」とも表現される。

 肝陽虚証は、虚によって寒が生じる虚寒証に属し、寒滞肝脉証は寒邪によって病変を生じ「実寒」が主となるので、虚実に違いがある。とは言え寒滞肝脉は、陽気不足で陰寒内盛傾向のある者に好発するので、(肝)陽虚体質との相関関係は無視出来ない。

 つまり、寒滞肝脉証においては、寒邪外犯(この場合は寒邪の直中)による肝経の寒凝気滞という「邪実」の証候と、陽虚体質者における陰寒内盛による寒凝肝脉という「虚寒」の証候の二種類の状況が、常に併存し得ることも考慮しておく必要がある訳である。

 さらに注意すべきは、寒凝によって生じた気滞や血瘀は、遷延すると次第に「化熱」が生じ得るということである

●膠原病に対する応用経験

 筆者(村田恭介)が最近遭遇したものでは、専門医による諸検査で全身性エリテマトーデスの疑い濃厚な十八歳の女性の相談を昨年五月に受けた。 秋・冬・春に手足のレイノー現象が顕著で、顔面の蝶形紅斑が著しい。舌体はやや小型・舌質はやや紅で殆ど無苔。一連の症候に基づいて温経湯に地龍を加えた方剤を投与。(レイノー現象が顕著であった昨年五月・六月および季節的な予防として本年一月・二月のみ当帰四逆加呉茱萸生姜湯のエキス製剤を併用。)これにより、自覚症状の順調な緩解とともに、毎月の検査も抗核抗体1280から翌月には640、その翌月にも320という調子で次第に正常化し、一年後の五月現在はレイノー現象は基本的に消失し、顔面の蝶形紅斑も殆ど消失し、最終的には80に安定して諸検査のみならず自覚症状においても緩解状態を持続している。

 このように、病院のステロイド剤による治療は絶対に避けたいという患者の両親および本人の強い希望があり、病院は検査のみ、治療は訳者の漢方のみで対処することとなったものであるが、比較的単純な方剤運用にもかかわらず、充分な成功をおさめている例である。

 「温経湯」は、衝任虚寒・寒滞肝脉と共に陰虚・血虚・気虚・血瘀が併存する証候に適応するので、肝経虚寒に対する温肝袪寒法の代表方剤の一つとも言えるものである。

●膠原病と肝経虚寒の内在関係について

 最近また、「混合性結合組織病」と診断された三五歳の婦人。某病院における昨年七月の検査では、抗核抗体 1280以上、抗RNP抗体 256以上で、レイノー現象がみられることがら、右記の診断結果が出されている。その他、血沈が65、CRP(一)、白血球3810、赤血球383万、ヘモグロビンは11、血小板20.6万、尿蛋白(一)、尿潜血(2+)、尿糖(一)、GOT36、BUN10、クレアニチン〇・4、血糖84、総蛋白9.2など。

 本病を自覚した初期は三年前の冬からのことで、手の強張りと両肩関節部の疼痛が強く、病院から出されるボルタレンで治療していた。本病の診断が下った昨年は、手足のレイノー現象とともに膝関節部の微熱感を伴う疼痛が激しく、顔面に軽度の紫がかった蝶形紅斑があり、午後から三七度を越える微熱が持続していた。昨年十月には、膝の屈伸困難となり、本年二月まで断続的に病院から出されたステロイド類を継続服用して少し軽快していたが、昼間は微熱程度なのに、夕方から夜にかけて39度の発熱が始まり、膝関節の疼痛も再び増悪したので病院治療をすべて中止。

 現症は、近くの薬局に相談し桂枝加朮附湯エキス錠を購入して、二週間の服用で膝関節の疼痛はかなり軽快するも、疲労感が激しく夜間の高熱は不変、毎日の通勤がとてもつらい状態である。舌質は淡紅で裂紋が多く無苔であるが、常に「骨の髄からの寒気」を感じ、寒い日や曇天で関節痛が悪化。

 常連の患者さんに紹介されて筆者の漢方を求めて来られたものの、昨年七月の検査時よりも明らかに増悪しており、当然諸検査もかなり悪化しているものと考えられる。病院に行けば即刻入院を宣告されてもおかしくない重篤な状態に近いので、もしも漢方治療で効果が少なければ、時を移さず診断を受けた病院に戻るべきことを告げ、三月七日に独活寄生湯加地龍をエキス製剤で一週間。

 これによって夜間の発熱が38度代になるも、食欲不振が激しいので、更に生脉散料エキス製剤を追加する。

 著効を得て食欲が完全に回復し、夜間の発熱も日によって37度代から38度代となる。ところが、三月二一日からは忠告を無視して生脉散を殆ど中止。独活寄生湯加地龍のエキス製剤のみを継続服用中であるが、幸いなことに生脉散の散発的な併用だけでも夜間の発熱は次第に消退。最近は独活寄生湯加地竜のみであるが、四〜五月現在は完全に平熱となり、膝関節痛・レイノー現象などの諸症状も基本的に消退している。

 独活寄生湯は、「外傷於湿に対する袪風除湿法」の方剤でもあるが、病機は肝腎両虚・風湿痺、治法は補虚宣痺とされるだけに、多少とも肝経虚寒の証候が内在している筈である。

 膠原病の病因病機は複雑多変であるから、安易なコメントは差し控えたいが、敢えて愚見を述べれば(当然、風寒湿邪などの外邪侵襲の有無や、各臓腑・基礎物質などに対する基本的な弁証分析を行う前提条件のもとで)、本病ではレイノー現象における肝経虚寒証との関連、寒滞肝脉や肝陽虚との直接的な関係に注目してみることも必要ではないかと愚考しており、併せて寒凝によって生じた気滞や血瘀は、遷延すると次第に「化熱」が生じ易いという観点は、かなり重要な弁証ポイントであるように思われるのである

 これらの愚見に基づき、一人は温経湯加地竜で緩解し、もう一人は独活寄生湯加地竜で緩解するなど、殆ど単一方剤で成分含量の低い製剤でも、比較的短期間で著効が得られたことは、既述の通りである。

 なお、蛇足ながら複雑な配合を必要とした膠原病では、強皮症の二〇代の未婚女性で、レイノー現象はそれほど顕著ではないが、独活寄生湯・防已黄耆湯の各エキス製剤に玉金・田七人参を併用して数年間、これら漢方製剤のみの連用で軽快している例がある。

 また、ステロイド剤を多年継続服用中の皮膚筋炎の五〇代の女性では、レイノー現象も顕著で、鬱病とメニエール症候群・高血圧症などが合併しているため、〇〇丸・生薬製剤二号方・田七人参・四逆散・半夏白朮天麻湯・釣藤散などの各製剤の多剤併用となってしまった。これら各種漢方製剤の数年以上連用で医師の指示によりステロイドも極端に減量でき、鬱病・メニエール症候群のみならず皮膚筋炎自体も緩解状態に持ち込めている例などがある。

●附録<陳潮祖著『中医病機治法学』より>

温肝袪寒法を採用する代表的方剤は、以下の通りである。

〔一〕当帰四逆湯(《傷寒論》)

 【組成】 当帰 細辛 通草 芍薬 甘草 大棗 桂枝

 【用法】 水煎し、一日三回に分けて温服。

 【病機】 寒傷厥陰・血脉凝滞。

 【治法】 温経散寒・調営通滞。

 【適応証】 (1)寒邪が厥陰を損傷して血脉が凝滞し、手足が冷え、脉が細で今にも途絶えそうなもの。

 (2)腹中の左や右に冷える部分があるのを自覚し、あるいは腰から股にかけて、ある

いは身体や足などが冷えるのを自覚し、病歴が五〜十年に亘って治癒しないもの。

 (3)婦人の血気痛にして、腰腹拘攣する者を治す。経水不調、腹中攣急し、四肢酸痛し、或は一身習々として虫行するが如く、日に頭痛する者を治す。〔《類聚方広義》〕

 (4)寒湿在表により、肢体が麻痺・疼痛するもの。

〔二〕当帰四逆加呉茱萸生姜湯(《傷寒論》)

 【組成】 当帰 細辛 呉茱萸 通草 桂枝 芍薬 炙甘草 生姜 大棗

 【用法】 適量の酒と水を加えて煎じ、滓を除去したものを五回に分けて温服。

 【病機】 寒傷厥陰・気血凝滞。

 【治法】 温経散寒・調営通滞。

 【適応証】 (1)当帰四逆湯証があり、胸満・嘔吐・激しい腹痛などを伴うもの。

 (2)霍乱多寒〔寒証の急性吐瀉病〕で手足が厥冷し、脉が微で途絶えそうなもの。

 (3)疝瘕[せんか]の諸証で、腹痛があり包塊が隆起して聚散〔出没〕を繰り返すもの。

 (4)産婦の悪露がいつまでも止まらず、身体の熱感・頭痛・腹中冷痛・嘔吐・軽い下痢・腰脚がだるく痺れたり軽度の浮腫がみられるもの。

 (5)宿飲〔寒飲〕が中焦に停滞することによる吐酸〔酸っぱい水の嘔吐〕・呑酸〔胸やけ〕などの症状、あるいは冷気が衝逆して心下に迫り胸脇を攻めるために生じる乾嘔や涎沫の吐出、あるいは嘔吐・下痢、あるいは腹痛、あるいは転筋〔こむらがえり〕、あるいは婦人の積冷血滞により月経期間が短く量も少ない・腹部がひきつり拘攣し心下〔胃📠部〕や脇下に波及することもある・肩背強急〔肩や背が強張る〕・頭や項部が重く痛むなどがみられ、手足の冷えと微細の脉を伴うもの。

 (6)小児の走腎〔睾丸の遊走〕で、腹痛のために泣き止まず、睾丸が陰嚢部に存在しないもの。

 (7)縮陰証〔男子は陰茎・陰嚢の収縮、女子は恥丘の収縮〕。

〔三〕呉茱萸湯(《傷寒論》)

 【組成】 呉茱萸 生姜 人参 大棗

 【用法】 水煎して一日三回に分け、微温で服用。

 【病機】 肝胃虚寒・濁陰上逆。

 【治法】 温肝降逆。

 【適応証】 肝胃虚寒による乾嘔・よだれやつばきの吐出・頭頂部痛・胃脘部や腹部の疼痛・舌質は淡・舌苔は白滑・脉は弦遅。

〔四〕暖肝煎(《景岳全書》)

 【組成】 肉桂 小茴香 沈香 生姜 茯苓 当帰 枸杞子

 【用法】 沈香をすり潰して粉末にし、他薬を水煎して滓を除去した液で、沈香末を冲服する。

 【病機】 肝寒気滞。

 【治法】 温肝解鬱・行気止痛。

 【適応証】 肝寒気滞による下腹部の疼痛・疝気〔腹部内臓の脱出・ヘルニア〕など。

〔五〕天台烏薬散(《医学発明》)


 【組成】 烏薬 木香(炒)一五g小茴香(炒) 青皮(白身を除去) 良姜(炒) 檳榔子 川楝子 巴豆

 【用法】 先ず巴豆を少し打ち砕き、川楝子と一緒に麸で炒って黒変させ、巴豆と麸を除去し、他薬とともに細末に製し、毎回三gを温酒で服用する。

 【病機】 寒凝気結。

 【治法】 温肝解鬱。

 【適応証】 (1)寒疝〔下腹部・陰嚢・睾丸などの疾病により生じる急性腹痛で、寒冷を誘発原因とするもの〕で、肝経気実・気滞寒凝により睾丸に放散する下腹部痛・脉は沈遅あるいは弦・舌質は淡・舌苔は薄白。

 (2)寒気の凝結による腹痛・月痛経。
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2018年10月20日

穀精と腎精について

中医学基礎:「精」−穀精と腎精について

   「精」− 穀精と腎精について 村田漢方堂薬局 村田恭介著

 飲食物を消化吸収した後に生成される「水穀の精」(穀精)は「後天の精」であり、精気血津液における精であると同時に、気血津液を生成する基本原料でもある。つまりは各臓腑の機能活動の物質的基礎であるから「臓腑の精」ともいわれる。

 さらに、この「後天の精」は、腎に貯蔵される「先天の精」という生命活動の源泉を絶えず補充し、人体の生命活動を維持する基礎物質でもある。五臓六腑を充盈した後は腎に貯蔵されることになるが、一般的には、この腎に貯蔵される精(腎精)を「精気血津液」という基礎物質における「精」であるとされている。

 しかしながら、ものの順序として、まずは飲食物を消化吸収した後に生成される「水穀の精」が、精気血津液における精(穀精)であり、つぎに穀精の一部が腎陽の気化作用によって腎精と化し、腎に貯蔵されることになったものも同様に、精気血津液における精(腎精)である、と認識すべきであろう。

 このように、穀精と腎精をともに包括したものが「精気血津液」における「精」の意味であるはずであるが、この「穀精」の概念については、基礎理論面では考察されても実際の臨床面においては、比較的看過されがちのように思われる。

 「穀精」の概念の臨床的意義は大きく、とりわけ「穀精不足」の病態の明確化は不可欠である。腎精不足は言うまでもなく各種の補腎薬が適応するものであるが、いっぽう「穀精不足」については、少なくとも脾虚の病態に関連し、補中益気湯・参苓白朮散・四君子湯などが適応することが多い。

 穀精と腎精の概念は、脾と腎の密接な関係を深く掘り下げて考察し、具体的な病態認識を行う上で極めて有意義であり、合理的で整合性のある弁証論治の内容を、さらに充実拡大させるものであると愚考している。穀精と腎精の密接な関係を有機的に理解していれば、卑近な例として、補中益気湯合六味丸や補中益気湯合海馬補腎丸などが適応する病態を認識する上でも、極めて有意義な概念と思われるのである。
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ラベル:穀精 腎精
posted by ヒゲジジイ at 11:51| 山口 ☀| 中医学基礎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする