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2023年07月21日

アレルギー性鼻炎に対する玉屏風散(製剤は⇒衛益顆粒)

以下、数十年前に、どこかで発表したらしいが、どこの雑誌かは不明。但し、一部修正。

 表虚自汗やカゼひき体質に対する玉屏風散は、教科書的な知識としては言うまでもないが、実際の臨床では、くしゃみや透明希薄な鼻水、つまりアレルギー性鼻炎と称される鼻の慢性疾患に応用されることが多い。

 表虚不固は、肺衛気虚の体表における病理反応を指しており、益気固表の玉屏風散が代表的な方剤である。

 実際の臨床応用としては、肺気不足で鼻竅不利を来たした「くしゃみ」に対し、玉屏風散の加減方を用いて補肺固表すれば治癒させることができる。

 また、肺気虚で表衛不固による「透明希薄な鼻水」にも、玉屏風散の加減方を用いて益肺固表すれば治癒させることができる。

 発作様の激しい症状を呈するときは、併存する外感風邪が比較的顕著といえるので、方剤中の防風を補助すべく去風解表を追加すべきである。

 たとえば既成方剤を利用する場合、外感風寒の併存では本方に「参蘇飲」あるいは「桂枝湯と苓甘姜味辛夏仁湯」などの各エキス製剤を合方し、外感風熱の併存では「銀翹散製剤」を合方するなどの配慮が必要である。

 なお、体質を本格的に変えて根治に導く為には、適切な補腎剤を併用する必要とする場合が多いが、すべては弁証論治にもとづいて方剤の配合を考慮すべきであることは言うまでもないものの、本治法では六味丸系列の方剤と併用すべき場合が多いようである。

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2023年06月11日

続命湯を代表とする外中風邪と脳血管障害の関係

 外中風邪による各種の症候は、現代西洋医学における脳血管障害の状況と一部に類似点が見られるので、日本漢方では「古今録験続命湯」が繁用されてきたが、これには問題点が多い。

 脳血管障害における風証は、内風が主体となることが多いので、実際には続命湯を早い時期から使用する機会は極めて少ないはずである。

 外風の解決を主体として続命湯などを使用することがあるとすれば、急性期を過ぎて後遺症を解決すべく、本格的なリハビリを行う時期からであろう。

 急性期の肝風内動に伴う各種の証候を解決すべき時に、続命湯など外風の治療方剤を安易に投与するのは、明らかに間違いである。

 たしかに筆者自身も、古方派時代には脳卒中後遺症の相談に対し、続命湯によって良効を得た経験は数多いが、いずれも急性期の治療を終えた退院後のケースばかりであった。

 「外中風邪」による症候は、肝風内動によるものよりも病状が軽いことが多く、主として上肢あるいは下肢の麻痺、顔面神経麻痺と言語障害、あるいは知覚障害などであり、半身不随にまで発展することは少ない。

 外中風邪に対しては、とうぜんのことながら疏散外風が治法となる。

 内風(肝風内動)が主体となる脳血管障害、つまり脳卒中における実際の臨床では、外からの寒風が内風を誘発して発病したり、肝風内動の誘因となった虚の状況に乗じて寒風の侵害をも許し、このために様々な後遺症や合併症を残したりする。

 それゆえ、当然のことながら、この後遺症や合併症を解決するために続命湯や疏経活血湯など、外風治療の方剤の適応状況があり得る。

 このため、現実にはかなり複雑な状況をはらむことが多いので、病態の推移に応じて臨機応変の対処が必要なのであるが、少なくとも脳卒中の早期から、続命湯などの外風治療の方剤を安易に投与することは、厳に慎まなければならない。

 ともあれ、外中風邪の典型的な臨床例としては、あらゆる検査で脳血管障害が全く否定されている右顔面神経麻痺の中年女性に対し、疏経活血湯と五積散の合方による著効例がある。

 また、30代の男性で寒風にさらされながらの連日の夜間作業後に生じた右上肢の麻痺感と軟弱無力感に対し、舌証として舌の歪斜が著しいことから外中風邪として、薏苡仁湯エキス製剤20日分にて速治した例など、本法を応用する機会が時折みられる。

 但し、急性の発症期においては、必ず西洋医学的な諸検査を受けて脳血管障害の有無を確認しておく必要がある。

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ラベル:続命湯
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2019年03月26日

痰瘀互結証と生薬製剤二号方

痰瘀互結証とウチダの『生薬製剤二号方』

 痰証を抱える実際の患者さんにおいては、痰証が遷延して痰瘀互結証に発展していることが多いので注意が必要である。痰滞と血瘀が互結した状況では、袪痰の方剤類に活血化瘀薬を加えて対応すべきであるが、エキス製剤を利用する場合は袪痰剤に活血化瘀剤を併用する。最近では、ウチダ和漢薬から『生薬製剤二号方』という名で製品化された活血化瘀剤があり、血瘀が併存するあらゆる病態に「併用方剤」として極めて有用である。それゆえ、あらゆるタイプの痰瘀互結証においても、ウチダの『生薬製剤二号方』を、適切な袪痰剤に加えて対処することができる。

 たとえば、66歳の男性で脳梗塞後の後遺症。主訴の後頭部の頭重・頭のふらつき感などとともに、不整脈・舌苔は微黄膩・舌下脈絡の怒張・血圧170〜117などの症候を伴うものに対し、釣藤散エキス散・ウチダの生薬製剤二号方・杞菊地黄丸の三方剤併用で、主訴および高血圧なども改善。

 59歳の男性で、主訴の頭のふらつき・前頭部の頭痛・息切れなどとともに、寒がる・舌質は紫がかって暗晦・舌苔は白厚膩などの症候を伴うものに対し、《脾胃論》の半夏白朮天麻湯エキス顆粒の投与で主訴に対して即効性が得られたが、しばらくすると効力が低下。そこで、ウチダの生薬製剤二号方の二分の一量を併用することで効力が安定した。

 なお、ウチダの『生薬製剤二号方』の成分は、丹参・川芎・紅花・芍薬・木香・香附子の六味であり、二十数年前に中国で開発され冠状動脈性心疾患や脳梗塞などに顕著な効能を持つ『冠心二号方』に極めて類似しており、方意は全く同様と考えてよい。また、十数年前に業界内ではユニークな健康食品として一世を風靡しながらも(丹参が医薬品に昇格したために)消滅の憂き目にあった『霊丹参』(霊芝+丹参)が、形と内容を変え、正式な医薬品として再登場したものと言えなくもない。

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2018年12月16日

六味丸に対する中医漢方薬学派の口訣集(基本方剤の中医学考察)

 六味丸に対する中医漢方薬学派の口訣集

主として漢方専門薬剤師による漢方薬方剤漫遊記 より引用抜粋し、一部修正
 六味丸は、腎虚の基本方剤である。
 専門的には、肝腎陰虚に適応する方剤として有名であるが、有名であっても日本国内では、そうでもない。
 六味丸の各社製品は、あまり売れ行きが思わしくないといわれる。

 逆に、腎陽虚や腎陰陽両虚に適応する「八味丸」や「牛車腎気丸」ばかりが、繁用され、配合中の「附子(ぶし)」の軽度の弊害をもたらせている症例をよく見かける。

 そう! この温暖化がひどく、食糧事情も豊か過ぎる日本国内において、これほど「附子」が配合された方剤が、大量に使用される現象には、些か驚かされるどころか、明らかに間違っている、と思っている。

 たとえ腎虚があっても、明らかな腎陽虚は見られず、むしろ陰虚から派生した虚熱の証候(一連の症候)が見られているのに、それでも八味丸や牛車腎気丸が出されているケースが、かなり多いのである。
 即刻、六味丸や知柏腎気丸などに切り替えるべきケースが多い。

 いきなり、八味丸乱用の日本社会の錯誤を取上げたが、実際には、六味丸こそふさわしいケースが多いからである。
 あるいは、少なくとも八味丸や牛車腎気丸から、附子を去った方がよいケースが多い、といいたいのだ。

 ということで、小生の経営する漢方薬局では、六味丸類は、しばしば使用するが、近年、八味丸や牛車腎気丸は、ほとんどお出しするケースが、皆無に近い、ということである。

 たとえ、「附子」が適応しそうなケースでも、なるべく使用しないで、附子抜きで反応を見ると、つまり、六味丸+肉桂の配合の製剤で、充分に対応できると思っている。
 必要もないのに「附子剤」を乱用すれば、肺陰を損傷しやすく、肺熱をもたらせたり、乾燥咳や目の充血を招いたりする。
 感冒などに罹患しているとき、不必要に乱用すれば、肺炎さへ誘発しかねないのである。

 日本国内の、(北海道や東北地方などは知らないが)、多くの地域の温暖化現象と、暖房設備の充実、豊かさ過剰な食糧事情から、そうそう附子配合方剤の必要性は感じられない、ということである。
 もっと、もっと六味丸は使用されてしかるべき時代だと信じるものである。

 なお、当然のことながら、弁証論治の法則からは、滅多に六味丸単独で、難病・慢性病に充分な対処が出来るものではない。
 一般論になるが、中国の陳潮祖教授の論著を参考に書いた「中医漢方薬学」の配合法則を参照されたい。(何種類の漢方薬が必要か)

 ネットサーフィンしていたとき、たまたま遭遇した、日本漢方専門の薬剤師の方が、質疑応答で、六味丸は、アトピーには使用することはないと返事していたので、驚いてしまった。

 中医学における弁証論治の世界では、日本人のアトピー性皮膚炎の本治法として、六味丸系列の方剤を使用する機会が大変多いものである。
 六味丸単独で使用されることは、子供さんの夜尿症であり得るくらいで、多くは他剤と併用しないと、正確な弁証論治に基づいた、適切な配合にならないことが多い。
 
以上、簡単に述べたことは、中医学派では当然のことで、何も小生の発明でもなんでもない。
 中医学理論をあまりご存じない、上述のような日本漢方の薬剤師さんが、どうどうと述べられること事態、問題ナシとしない。

 そもそも、中医学で最も重視する補腎の方剤を、西洋医学的な病名だけで、使用する、しないを決められるものではない。
 
なお、小生の薬局では、六味丸に猪苓湯の併用を土台として用いることも多いが、あくまで弁証論治にもとづく結果としてのことで、決して西洋医学的な病名で、漢方薬方剤の応用範囲を決めてはならない。
   これを簡単に説明すれば、腎系から体内の水分調節を行い、また膀胱系の方からは猪苓湯が体内の水分調節を行ってくれる、ということである。
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2018年12月15日

六味丸 (六味地黄丸)出典『小児薬証直訣』(基本方剤の中医学考察)

六味丸 (六味地黄丸)出典『小児薬証直訣』

 六味地黄丸、つまり六味丸は、補益薬の中でも、滋補腎陰法の方剤として、もっとも基本的な方剤である。八味丸のように適応症を間違えると 肺陰を損傷する恐れのある附子(ブシ)や肉桂(ニッケイ)などを除去して構成されたものが、この六味丸である。

 まずは、中医学的な方剤の効果・効能を、四川科学技術出版社発行の『中医方剤与治法』から拙訳で抜粋引用させて頂く。
【薬物構成】 熟地黄240g 山茱萸120g 乾山薬120g 沢瀉90g 茯苓90g 牡丹皮90g  

【用法】 粉末を蜜丸にし,1日に2〜3回,空腹時に1回につき3丸(9g)を湯で服用する。湯剤とする場合は用量を減す。

 【主治】 腎陰虧損・虚火上炎による足腰のだるさや疼痛・歯の動揺・小便が出渋る・消渇・耳鳴び・目のかすみ・勃起しやすい・咽の乾燥・舌痛・盗汗・不眠・頭のふらつき・めまい・遺精・夢精・踵の疼痛・喀血・声が出ない・呼吸困難・咳嗽・津液の灼傷による痰証・尺脉の虚大など。

 【分析】 腎は「先天の本」である。腎中の「真陰」は人体の陰液の根本であり,各臓腑を濡潤・滋養する作用がある。腎陰が虧損すると,本臓自体が病むばかりでなく,五臓のすべてが影響を受ける。本症の発病機序の分析は以下の通りである。
 (1)腎は骨を主り,髄を生じ,歯は骨の余りであり,腰は腎の府である。それゆえ,腎陰虧損により腎精が不足すると,骨髄が空疎となるために足腰がだるく無力・歯の動揺などを生じる。腎は主水の臓であるから,腎陰虧損により主水機能が失調すると小便が出渋るようになる。腎が虚すと固摂失調を生じて頻尿となり,津液を損耗すると口渇を生じて消渇となる。腎は耳に開竅し,眼球の瞳孔は腎に属しているので,腎陰が虧損すると耳鳴・目のかすみを生じる。男子の性器が勃起しやすくなるのは,陰虚陽旺・相火亢盛によるものである。以上は,腎の本臓自病〔腎臓自体の病変〕によって生じるものである。
 (2)心は陽に属して上焦に位置し,その属性は火である。腎は陰に属して下焦に位置し,その属性は水である。正常な生理状態下では,心陽は 腎に下降して腎水を寒(ひや)さないようにしており,腎水も心を上済して心火を亢ぶらないようにしている。
この状態を「心腎相交」「水火既済」という。
それゆえ,腎陰が虧損して腎水が上昇せず,心陽だけが下降して虚火が少陰経脉を循環して上炎すると,咽の乾燥・舌痛を生じる。陰は虚し,陽が擾乱して陽が陰分を蒸迫すると,津液を漏泄して盗汗を生じる。陰虧陽亢のために心神不安を生じると不眠になる。以上は,腎病が心に波及したための,心腎同病により生じるものである。  
(3)肝腎は同源であり,腎陰は肝陰と相互資生の関係にあり,一方が充盛すれ両者ともに充盛となり,一方が衰えれば両者ともに衰退する。したがって,腎中の陰精が虧損すると肝陰虚衰を引き起こし,陰が陽を制御できずに肝陽が上亢するために,頭のふらつき・めまいなどを生じる。肝は疏泄を主るが,肝陽亢盛により疏泄が過剰となり,そのうえ腎陰虚損のために収蔵することができないと,遺精・夢精を生じる。肝は筋を主るが,肝腎陰虚により筋の栄養が失調すると,踵の疼痛を生じる。以上は,腎病が肝に及んだための,肝腎同病による症状である。  
(4)腎陰は人体における陰液の根本であるから,腎陰が虚したために肺陰を滋潤することができないと,燥熱内生・虚火犯肺により,咳嗽・喀血・呼吸困難・発声困難などを生じる。これらは,腎病が肺に及んでもので,病位は肺で,病機が腎の症状である。  
(5)腎は先天の本であり,脾は後天の本であるから,脾と腎は相互に助け合い相互に促進し合う。腎陰不足により陰火が上昇すると,脾が主る津液を運化する機能が障害されるばかりでなく,津液を煉灼して痰涎を生じる。これは,腎病が脾に及んだための,脾腎同病による症状である。

 以上のように,本法の方剤で治療できる症状は多いが,つまるところは腎陰虧損・虚火上炎によって生じたものである。  

【病機】 腎陰虧損・虚火上炎

【治法】 滋陰補腎法
 
【方意】 真陰虧損により,陰が陽を制御できずに虚火亢盛となった場合のキーポイントは,補陰によって陽を制御することで,腎陰が充足すれば諸症状はおのずと解消する。この治法こそが「水の主を壮んにし,もって陽光を制す」という意味である。  主薬は熟地黄で,滋養腎陰・填精補髄〔腎陰を滋養し,精と髄を補填〕する。山茱萸は固精斂気・収斂虚火するもので,肝の疏泄妄行を防ぎ,腎精を固蔵させる。山薬は補脾固精し,脾気を健運させて腎精の来源を開拓する。この山茱萸と山薬は,肝や脾を兼治するもので,補助薬である。腎は主水の臓であるから,滋補を行うときには水湿の壅滞を防ぐ必要がある。このため,滋補腎陰の方剤中に少量の利水薬を配合して腎の主水機能に配慮し,補しても滞らないようにすると,補薬の作用をさらによく発揮させることができる。
 なお,本方で治療することができる症状は,@腎虚による症状・A陽亢による症状・B水液失調による症状,の三組にまとめることができる。それゆえ,滋補腎陰の熟地黄に対して通調水道の沢瀉で補佐し,健脾固腎の山薬に対して淡滲利湿の茯苓で補佐し,収斂精気の山茱萸に対して清瀉虚火の牡丹皮で補佐し,補陰の熟地黄に対して瀉陽の牡丹皮で補佐しているが,これらは《霊枢・終始篇》で述べられる「陰虚して陽盛んなるは,先ずその陰を補い、後にその陽を瀉してこれを和す」という治療法則に該当する。このように,沢瀉・牡丹皮・茯苓を配合する目的は,一方では小便失調・相火亢盛などによる症状を取り除き,もう一方では熟地黄・山薬・山茱萸による副作用を予防する意味がある。以上の薬物により,滋補しても邪を留めず,降泄しても正を損傷せず,補の中に瀉があって相互に扶助し合うが,これが腎陰を補う基本構成である。
 本方と補中益気湯を比較すると,処方構成における昇降関係が理解しやすくなる。ちょうど,尤在 は「陽虚では気陥不挙となることが多いので,補中益気湯には人参・黄耆・白朮・甘草を多量に用いて甘温益気し,辛平の升麻・柴胡を用いて上昇を助ける。陰虚では気が常に上昇して下降しないので,六味地黄丸には熟地黄・山茱萸・山薬など,味が濃くて重質なものを多量に用いて補陰益精し,茯苓・沢瀉の甘淡によって下降を助ける。気陥では滞ることが多いので,陳皮の辛で気滞を解消する。気の浮上では熱することが多いので,牡丹皮の寒で浮熱を清する。六味地黄丸には茯苓・沢瀉があり,補中益気湯には升麻・柴胡がある。補中益気湯には陳皮があり,六味地黄丸には牡丹皮がある。さらに,補中益気湯には人参・黄耆・ 白朮・甘草・当帰があり,六味地黄丸には熟地黄・山茱萸・山薬がある。
 このように治法は異なっても,病理においては対蹠的な共通性がある」と述べている。  

【応用】 本方は滋補腎陰法における基本方剤であり,後世多数の補腎剤が本方を加減して作られている。方中の各薬物の配合量は,臨床実際の必要性に応じて調節する。たとえば「血虚陰衰では熟地黄を君薬とし,滑精・頭暈では山茱萸を君薬とし,小便の量や濃淡に異常があるときは茯苓を君薬とし,排尿障害では沢瀉を君薬とし,心虚火盛や血[]があるときは牡丹皮を君薬とし,脾胃虚弱・皮膚枯燥では山薬を君薬」とする。


 報告によると,本方や本方から沢瀉を去り天花粉を加えたものは,糖尿病に一定の効果がある。本方に犬の下丘脳下垂体組織液の注射を組み合わせると,尿崩症に有効である。本方の加減方(生地黄・熟地黄・山薬・沢瀉・枸杞子・白芍・穀精草・木通)は,中心性網膜炎の治療に用いることができる。本方に枸杞子・菊花・当帰・赤芍・絲瓜絡・珍珠母などを加えたものの,中心性網膜炎に一定の効果がある。本方は食道上皮細胞の異常増殖(食道癌の前駆的病変)に用いて一定の効果があり,異常増殖の好転と癌細胞化防止を促進する一定の作用を示す。

 動物実験によると,本方は正常マウスに対し体重の増加・遊泳時間の延長・体力の増強作用があるほか,N−ニトロソサルコシンエチルによるマウスの胃部扁平上皮癌前駆状態の誘発率を低下させ,化学的発癌物質を接種した動物における脾臓リンパ小節の中心性増殖を活発化させ,接種移植した腫瘍の初期において単核マクロファージ系統の貪食活性を増強し,腫瘍負荷動物の血清アルブミン対グロブリンの比率を高め,腫瘤負荷動物の生存時間を延長するようである。以上のことから,本方の主な働きは生体の抗癌能力を引き出し,扶正によって去邪を達成する作用であると推論される。  

【加減方】
 
(1)杞菊地黄丸(『医級』)
 
[成分] 本方に枸杞子・菊花を加える。
[主治] 肝腎不足による頭のふらつき・めまい・目のかすみ・眼球の乾燥異物感や痛みなど。


(2)麦味地黄丸(『医級』 別名「八仙長寿丸」)

 [成分] 本方に麦門冬・五味子を加える。
 [主治] 腎虚による労嗽で、咳嗽・吐血・潮熱・盗汗・夢精・遺精など。  


(3)耳聾左慈丸(『重訂広温熱論』)
 
[成分] 本方に磁石・石菖蒲・五味子を加える。  
[主治] 熱病後期で身熱が消退して以後,腎虚精脱による耳鳴・難聴・舌質は紅・舌苔は少・脉は細数。  


(4)知柏地黄丸(『医宗金鑑』)
 
[成分] 本方に知母・黄柏を加える。
 [主治] 陰虚火旺による骨蒸潮熱・盗汗・遺精・小便が出渋って痛いなど。

−以上、四川科学技術出版社発行の『中医方剤与治法』より
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2018年12月14日

平胃散(基本方剤の中医学考察)

   平胃散(基本方剤の中医学考察)

 【原方名】 平胃散(《和剤局方》)

【処方構成】 蒼朮 厚朴 陳皮 生姜 大棗 甘草

【方剤の特徴】 燥湿運脾・行気和胃を効能とすることから湯液を「燥湿理気湯」というネーミングも可能であろう。

【主治】外湿の侵襲・生冷物の過食・油膩物の過食などにより湿困脾胃・中焦気滞を生じたもので、胃📠部や腹部の脹満・げっぷ・むねやけ・食欲不振・悪心・嘔吐・泥状便・倦怠感・横になりたがる・体が重だるく痛む・舌苔は白厚膩・脉は緩など。

【方意】 外湿の侵襲・生冷物の過食・油膩物の過食などにより脾が健運できなくなり、湿濁が中焦気機を阻滞し、清濁逆乱を生じたものであるから、治法は燥湿運脾・行気和胃である。
 蒼朮は苦温辛燥で、燥湿運脾の効があり、本方の主薬である。補薬の厚朴は苦辛温で行気化湿・消脹除満する。
 佐薬の陳皮は辛苦温で理気和胃・燥湿健脾する。蒼朮・厚朴・陳皮の三薬は芳香性があり、和胃醒脾して昇降を調節する作用がある。
 甘草は脾胃を補益すると同時に諸薬を調和し、生姜・大棗は益胃和中し、これらは使薬である。
 以上の諸薬により、湿濁を除き中焦気機を調節するため、脾は健運し胃気は和降する。

【病機】湿困脾胃・中焦気滞

【治法】燥湿運脾・行気和胃法

【応用】 本方は燥湿運脾・行気和胃を効能とした胃腸疾患に対する常用方剤で、胃脘部や腹部の脹満・食欲不振・舌苔が白厚膩・脉は緩などが弁証ポイントである。
 急性胃腸炎・慢性胃腸炎・胃腸神経症・慢性胃炎などで湿困脾胃・中焦気滞の病証に広く用いられる。
 過食による食滞が顕著な場合は神麹・麦芽・山梔子を加えた「加味平胃散」を用い、湿鬱化熱して口苦があり、舌苔が黄膩などを生じる場合では、本方に黄連解毒湯の適量を合方する。

〔参考にさせて頂いた文献〕
  ●「中医治法与方剤」(人民衛生出版)
  ●「中医病機治法学」(四川科技出版)
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ラベル:平胃散
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2018年12月13日

八味丸(基本方剤の中医学考察)

   八味丸(基本方剤の中医学考察)

【原方名】八味地黄丸(《金匱要略》)

【処方構成】地黄 山薬 山茱萸 沢瀉 茯苓 牡丹皮 桂枝 附子

【方剤の特徴】腎陽を温補するのを効能とすることから日本国内でも、村田恭介の命名によりマツウラさんから錠剤のエキスで「腎陽温補丸」だったか「腎陽温補湯」だったかの愛称名で販売されたこともあるが、現在は廃番となり、現在は「腎陽温補散」の名で散剤として復活している。

【主治】腎陽不足による足腰のだるさ・下半身の冷え・排尿困難あるいは排尿過多・脉は虚弱、および痰飲・脚気・水腫・消渇など。

【方意】 腎陽が不足すると水邪を生じるので、腎陽を温補して腎陽を旺盛にする必要がある。

 腎陽が盛んになると気化機能が回復して水液失調による種々の症候はおのずと回復する。

 ただし、陰陽学説では、陰陽は対立しつつも相互に依存し、相互に転化するものとされ、「陰は陽から生じ、陽は陰から生ず」「孤り陰は生ぜず、独り陽は生ぜず」ということであり、張景岳のいう「よく陽を補うものは必ず陰中に陽を求め、陽は陰の助けを得るをもってすなわち生化は窮まりなし」との観点から本方を理解すべきである。

 したがって、桂枝・附子は温陽益火し、腎陽が盛んになると気化機能が回復するものの、壮陽益火するだけでは腎陰を損傷しやすいばかりでなく腎陽のよるべきところを喪失してしまうので、腎陽を温める時には益陰する必要がある。

 このため、滋陰補腎の地黄、肝腎を補い精気を固める山茱萸、培脾固腎の山薬などで益陰摂陽して、陰中に陽を求める。

 また、補陽により肝腎の邪火が亢盛するのを防止するために牡丹皮を加えて伏火を清する。

 気化機能の衰えによる水液失調に対し茯苓・沢瀉を用いて湿邪を滲利し水道を通調する。

 以上八味の配合により、補中に瀉があり、瀉によって補を助けて益陰助陽し、温性にして乾燥させず、腎陽を奮い起たせて気化機能を助け、温陽補腎の効を発揮する。

【病機】 腎陽不足

【治法】 温補腎陽

【応用】 腎陽不足による各種疾患に対して極めて応用範囲が広い。

〔参考させて頂いた文献〕
  ●「中医治法与方剤」(人民衛生出版) 
  ●「中医病機治法学」(四川科技出版)
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2018年12月12日

防已黄耆湯(基本方剤の中医学考察)

  防己黄耆湯(基本方剤の中医学考察) 

【原方名】 防已黄耆湯(《金匱要略》)

【処方構成】 防已 黄耆 白朮 生姜 大棗 甘草

【方剤の特徴】 「固表実脾・利水除湿」を効能とすることから「固表治湿湯」ということができる。

【主治】 @風湿・風水で、脉が浮・身体が重くだるい・自汗・悪風・尿量減少するもの。
  A湿痺によるしびれ。

【方意】 本方は、水腫や風湿に表虚(衛気虚)が合併したものに適応する。
 このため利水消腫・除湿止痛の防已、益気固表・利水退腫の黄耆を主薬とすることにより、益気固表・利水除湿の効能を発揮する。
 これに除湿・補気・健脾の白朮、補気健脾の甘草を補薬とすることにより、益気と除湿の効能が増強される。
 防已・白朮の利水除湿によって袪邪し、黄耆・白朮・甘草の固表実脾作用によって扶正する。
 このように、扶正袪邪法を行うことにより、正虚邪実の病態を全面的に配慮し、標本同治の配合方式をとっている。
 なお、生姜・大棗については、営衛を調和するためである。

【病機】 脾肺気虚・風湿・風水

【治法】 固表実脾・利水除湿法

【応用】 一般的には、補気・利水消腫を目的として、疲れやすい・汗かき・むくみやすい・膝関節の疼痛や浮腫などの症状に応用される。色白・白豚的な水太り・汗かきの有閑マダム的な女性が典型的で、いわゆる水太りによる肥満体質に対する治療薬としても優れている。ただし、気虚・風湿の証候であれば、男性・女性・肥満・痩身にこだわることなく、リウマチ・関節痛・腎炎・原因不明のむくみなどに広く応用される。

〔参考にした文献〕
  ●「中医治法与方剤」(人民衛生出版) 
  ●「中医病機治法学」(四川科技出版)
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2018年12月11日

桂枝茯苓丸(基本方剤の中医学考察)

  桂枝茯苓丸(基本方剤の中医学考察)

【原方名】 桂枝茯苓丸(《金匱要略》)
 
【処方構成】 桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬
 
【特徴】「活血化瘀・消散癥塊」を効能とし、「化瘀」作用を主体とした血分病を治療する「理血」剤の一種である。
 
【主治】 @婦人で下腹部に癥塊(子宮筋腫などの腫塊)があり、圧痛・腹部のひきつりがあるもの。
 A無月経で腹痛するもの。
 B産後の悪露が続き、腹痛と圧痛があるもの。

【分析】 癥塊の形成には、気・血・痰・湿と密接な関係がある。人体内の気・血・津液は正常状態であればスム−ズに運行しているが、各種の原因によって気・血・津液の運行が障碍されると、
 気機不利となれば気滞を呈し、
 血行不調となれば血瘀を呈し、
 津液が凝滞すると痰湿を呈する。
 これらの気滞・血瘀・痰凝・湿阻などの病理変化が、癥塊を形成する原因である。
 桂枝茯苓丸が主治する癥塊は、血瘀と痰湿の阻滞によるものである。(痰瘀交阻)

【病機】 血瘀痰滞証。  

【治法】 活血化瘀・消散癥塊法  

【応用】 子宮筋腫などの癥塊を形成する病など上記の主治にこだわらず、血瘀と痰湿が阻滞する病機(証候)であることを条件に各科に応用され、治療効果の点でも極めて実績が高い方剤である。

[参考にさせて頂いた文献]
  ●「中医方剤与治法」(一九八四年 四川科学技術出版社発行)
  ●「中医病機治法学」陳潮祖著(一九八八年 四川科学技術出版社発行)
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ラベル:桂枝茯苓丸
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2018年11月01日

柴胡が欠ける日本の竜胆瀉肝湯について

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

             村田漢方堂薬局 村田恭介

 本方は、「肝・胆・三焦の実火で湿熱内盛」に対する方剤であり、

@上・中部の肝火(肝胆実火上擾)に対する効能と、

A下部の肝熱(肝胆湿熱下注)に対する効能

 の二種類に分類することが出来る。

 @は、肝胆の実火の上擾による頭痛(頭部の脹痛を含む)・眩暈・目が充血し腫脹と疼痛を伴う・難聴・耳の腫脹・胸脇部の脹痛など。

 Aは、肝胆の湿熱下注による小便が出渋って痛む・陰部の腫脹・陰部の掻痒・悪臭を伴う粘稠な帯下・舌質は紅・舌苔は黄・脉は弦数で力があるなど。

 臨床応用としては、自律神経失調症・偏頭痛・高血圧・頭部の湿疹・急性結膜炎・虹彩毛様体炎・緑内障・急性鼻炎・鼻前庭および外耳道癤・急性中耳炎・急性黄疸性肝炎・急性胆嚢炎・急性腎盂腎炎・急性虫垂炎・膀胱炎・尿道炎・前立腺炎・急性骨盤内炎症(急性内性器炎)・膣炎・睾丸炎・副睾丸炎・鼠径リンパ腺炎・帯状疱疹・ベーチェット病・湿疹およびアトピー性皮膚炎など枚挙に遑がない。

 上記以外の各種の疾患でも、「肝胆三焦実火・湿熱内盛」という病機の範疇に属する限りは、極めて広範囲な領域の各種疾病に応用が可能である。各種の急性感染症・皮膚疾患・眼科疾患・内分泌系疾患・泌尿生殖器系疾患・耳鼻咽喉科疾患のみならず、各種の出血性疾患や血液系疾患にまで応用可能な方剤であり、肝胆実火に対する最も代表的な方剤である。

 なお、日本国内で製造販売されている竜胆瀉肝湯エキス製剤は、出典が異なるため「柴胡」の配合が欠けているので、注意が必要である

 以上、私見に加えて、
 @潮祖先生の『中医治法与方剤 第三版』(人民衛生出版社)
 A方文賢主編『中医名方臨証秘用』(中国中医薬出版社)
 B王元武・赤堀幸雄共著『方義図解 臨床中医方剤』(医歯薬出版)
 の三冊を参考にさせて頂いた。
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ラベル:竜胆瀉肝湯
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2018年10月31日

麦門冬湯の応用

ずいぶん昔に書いた拙論だが、おそらく「和漢薬」誌の『中医病機治法学』の訳注連載中の蛇足的な注釈部分だったように思う。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

            村田漢方堂薬局 村田恭介

 麦門冬湯は、あまりに有名なので、今更述べるまでもないように思えるが、少し変わった病症では、病名治療的にドライアイに対して意外な効果を示すことが多い。白眼は肺に属し眼球結膜まで敷衍できるので、麦門冬湯は肺津虚に対する効能もあることから、合理的に納得出来る筈である。

 また、筆者は舌炎・口内炎に対しても日常的によく使用しており、舌証においては舌苔が少ない場合に適応性があり、たとえ舌質は紅でなく舌尖のみが赤いという程度でも、適応する場合が多い。

 麦門冬湯で大量に配合される「麦門冬」は、潤肺養陰・益胃生津だけでなく清心除煩の効能もあり、肺胃だけでなく心経にも帰経し、心陰虚による虚火上炎にも有効である。

 麦門冬湯が有効であった舌炎・口内炎の症例を包括的に分析すると、胃陰虚・肺陰虚・心陰虚の三者の一つか二つの併存、あるいは三つの併存により、口唇・口中・舌部の乾燥現象の上に、それぞれの陰虚による虚火上炎に誘発されて慢性的な舌炎・口内炎が生じたものと思われる。

 陳潮祖著「中医病機治法学」では、胃陰不足に対する益胃生津法の代表方剤の一つとして取り上げられているこの麦門冬湯は、「肺胃津虚・虚火上炎」の病機に即応するものとして記載されているように、一般的にも肺胃陰虚に対する代表的な方剤として認識されている。

 ところが、実際には人参が配合されているので、肺胃の気陰両虚に対応するものとしての認識も必要である。臨床上は顔を真っ赤にして咳き込む乾燥性の咳嗽や嗄声によく用いられるが、上記のように主薬の麦門冬の薬能と筆者の経験に基づく考察によれば、胃・肺・心のいずれかの陰虚による虚火上炎に誘発されて生じる舌炎・口内炎にも、大いに有効と認められる訳である。それゆえ、麦門冬湯の効能をもう少し厳密に表現すれば、「心肺胃いずれか一〜三部位の気陰両虚、およびこれらの部位の陰虚による虚火上炎」ということになる。

続編的重要関連文献:陰虚による舌炎・口内炎について
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ラベル:麦門冬湯
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2018年10月30日

参苓白朮散という脾虚気弱に対する全面的な方剤について

 脾虚気弱に対する全面的な方剤「参苓白朮散」

村田漢方堂薬局 村田恭介

 参苓白朮散は、一般的には脾虚湿盛(脾胃気虚による水湿内盛)の病機に対する方剤として繁用されるが、脾の気陰両虚に対する方剤としての側面や、脾虚によって生じる気血両虚に対する方剤としての側面も忘れてはならない。

 中焦の脾土は万物の母であり、水穀精微の運化を主り気血生化の源であり、後天の本である。それゆえ、脾土が虚衰して運化機能が低下すると、五臓六腑の濡養不足を来たして各種の病証を誘発する。

 @脾虚によって水穀精微が運化〔消化・吸収・運輸〕されず、気血の原料不足による気虚や血虚の症候が現われる。

 A脾虚のために水穀精微の生成不足により脾臓の陰血と津液が欠乏して脾陰虚が生じる。

 B脾虚による水湿の運化不足により湿邪が内盛する。

 C湿邪が中焦気機を阻害すると昇降失調を来たして胃が和降できなくなる。

 D脾気虚衰によって脾土の子である肺金にも影響して肺気が衰え、湿聚生痰から肺気の宣降失調を誘発する。

 参苓白朮散は、このように脾虚によって誘発される各種の証候に適応する方剤であり、脾虚気弱に対するかなり全面的な方剤と言える。

 舌証については、脾虚湿盛が主体の病証では、胖大で淡紅の舌質に白膩苔を伴うことが多いが、脾陰虚が主体の病証では、胖大であっても紅絳の舌質であることが多く、少苔や花剥苔・地図状舌であることが多い。

 脾胃気虚が遷延すると、脾陰が滋養されなくなって脾陰虚を伴うものである。それゆえ、脾虚気弱に対して一般的な補気健脾の方剤を用いても、期待するほどの効果が発揮されない場合は、方剤中に脾陰虚に対する配慮が欠けているためと思われるので、参苓白朮散を使用してみるとよい。

 また、補気健脾方剤の選択に迷うような時には、暫定的に本方を投与してみるのも一つの方法である。

 一般的な脾気虚の症状とともに口唇の乾燥・指先の角質化・手足の熱感・身体の熱感・皮膚の乾燥などの症状を伴うときは、脾陰虚の症候が顕著であるので参苓白朮散が適応し、特定の疾患では潰瘍性大腸炎・慢性膵炎・慢性腎炎、あるいはアトピー性皮膚炎・尋常性乾癬などで使用する機会がある。

 また、元気がない・疲れやすいなどの気虚の症状とともに、頭のふらつき・目がかすむなど明らかな血虚の症状が見られるとき、一般的な気血両虚との判断から十全大補湯を投与すると食欲減退・身体の熱感・泥状便などが生じて逆効果となり、気虚血少に対する帰脾湯や補中益気湯で効少なく、結局は参苓白朮散でなければ治療効果を発揮出来ない気血両虚もあるので、注意が必要である。

【参考文献】
@「図解 中医方剤マニュアル」(何金森著/植村澄夫訳 東洋学術出版社)

A「中医臨床のための方剤学」(神戸中医学研究会編 医歯薬出版)
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2018年10月29日

応用範囲の広い「基本方剤そのままの温胆湯エキス」の製造を、コタローさんが実現するに至ったきっかけとなった拙論

温胆湯(うんたんとう)

1996年の「和漢薬」誌513号の拙論 (村田恭介)

●エキス剤の製品開発が望まれる『温胆湯』

 温胆湯は、中医学では絶対に不可欠な基本方剤である。胆胃不和による痰熱内擾の病機に適応するとされるが、胆と脾胃が虚弱なものが精神的なストレスにより気鬱生痰・気鬱化火を誘発して痰熱を生じ、胆の疏泄と胃の和降の失調とともに、痰熱が少陽三焦を壅滞したものである。

 それゆえ、温胆湯は理気化痰・清胆和胃・疏調三焦の効能を発揮するのが特徴である。

 応用範囲は、冠状動脈性心疾患・動悸・心室性期外収縮・心房細動・高血圧・脳血管障害・甲状腺機能亢進・不眠症など各種の神経症・癲癇・いわゆるメニエール氏症候群・胃十二指腸潰瘍・胆嚢炎・胆石症・妊娠悪阻・気管支炎・気管支喘息等々、数え挙げれば際限がない。

 ところが日本国内では、竹茹温胆湯や加味温胆湯、あるいは基本方剤に酸棗仁・黄連が加味された製剤など、加味方剤のエキス製品はあっても、《千金方》や《三因方》のような原典記載の基本方剤は製造されていない。

 上記のような広範囲な応用が可能となるのは、それぞれの複雑な病機にもとづいた治療法則に対応し、温胆湯の加味・合方を有機的に行ってはじめて可能となるのであるから、中医学がますます認識されてゆくこれからの時代、必然的に原典にもとづいた基本方剤そのままの温胆湯エキスの製造の要望が高まるに違いない。

 温胆湯は『一般用漢方処方の手引き』の210処方中に記載されている方剤だけに、製造許可は容易に得られるはずである。

 温胆湯の配合内容は、黄連・酸棗仁・大棗を除外した「半夏・茯苓・生姜・陳皮・竹茹・枳実・甘草」の七味が最も理想的である。黄連・酸棗仁・大棗の三味を決して配合してはならず、さもなければ有機的に広範囲な活用が出来なくなるのである。

 また、分量としては甘草が一グラム未満の製剤で、甘草に対する注意書きの記載を必要としないものが理想的なのである。

追記:その後、2005年になってようやく小太郎漢方製薬から基本どおりの温胆湯エキス顆粒が製造販売された。)
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ラベル:温胆湯
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2018年10月28日

十数年以上前に専門誌に書いた「茵蔯蒿湯の考察」に重要な補足を加えてみた

茵蔯蒿湯の考察
                     村田漢方堂薬局 村田恭介

 茵蔯蒿湯は、黄疸治療の名方である。茵蔯は黄疸の要薬であり、清熱利湿の作用があるだけでなく、肝胆の鬱を解除する作用があるので、利胆退黄の効能を発揮する。清熱利湿の山梔子の配合によって利胆退黄の作用が増強されるが、さらに瀉熱通腑の大黄を配合すると、胆管や腸道が通暢するので胆汁が腸道にスムーズに流れ、利胆退黄の作用が促進される。このように僅か三味の配合で、清熱除湿・利胆退黄の強力な方剤が完成する。

 苦寒清熱・利胆通腑・活血行瘀の効能を持つ「大黄」の配合は、特に重要である。大黄の清熱作用は、茵蔯蒿と山梔子の清熱解毒を増強する。大黄の利胆通腑作用は、上述のように胆管と腸道を通暢して胆汁の正常な流れを確保せしめるので、退黄を助ける。大黄の活血行瘀作用は、蔵血の肝の血流を通暢して肝機能の回復を促進するだけでなく、肝臓肥大などの後遺症を防ぐので、大黄の配合は極めて重要な役割を持っている。

 臨床応用としては、黄疸などを伴う肝胆疾患のみならず慢性腎炎や腎不全に不可欠であり、急性蕁麻疹・慢性蕁麻疹・アトピー性皮膚炎のみならず各種の湿疹、さらには湿熱が経絡で蘊結し、熱痺を呈する痛風や関節炎などにも応用可能である。

 以上、私見に加えて、

 @陳潮祖先生の『中医治法与方剤 第三版』(人民衛生出版社)
 A方文賢主編『中医名方臨証秘用』(中国中医薬出版社)
 B王元武・赤堀幸雄共著『方義図解 臨床中医方剤』(医歯薬出版)

 の3冊を参考にさせて頂いた。

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