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2018年11月01日

柴胡が欠ける日本の竜胆瀉肝湯について

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

             村田漢方堂薬局 村田恭介

 本方は、「肝・胆・三焦の実火で湿熱内盛」に対する方剤であり、

@上・中部の肝火(肝胆実火上擾)に対する効能と、

A下部の肝熱(肝胆湿熱下注)に対する効能

 の二種類に分類することが出来る。

 @は、肝胆の実火の上擾による頭痛(頭部の脹痛を含む)・眩暈・目が充血し腫脹と疼痛を伴う・難聴・耳の腫脹・胸脇部の脹痛など。

 Aは、肝胆の湿熱下注による小便が出渋って痛む・陰部の腫脹・陰部の掻痒・悪臭を伴う粘稠な帯下・舌質は紅・舌苔は黄・脉は弦数で力があるなど。

 臨床応用としては、自律神経失調症・偏頭痛・高血圧・頭部の湿疹・急性結膜炎・虹彩毛様体炎・緑内障・急性鼻炎・鼻前庭および外耳道癤・急性中耳炎・急性黄疸性肝炎・急性胆嚢炎・急性腎盂腎炎・急性虫垂炎・膀胱炎・尿道炎・前立腺炎・急性骨盤内炎症(急性内性器炎)・膣炎・睾丸炎・副睾丸炎・鼠径リンパ腺炎・帯状疱疹・ベーチェット病・湿疹およびアトピー性皮膚炎など枚挙に遑がない。

 上記以外の各種の疾患でも、「肝胆三焦実火・湿熱内盛」という病機の範疇に属する限りは、極めて広範囲な領域の各種疾病に応用が可能である。各種の急性感染症・皮膚疾患・眼科疾患・内分泌系疾患・泌尿生殖器系疾患・耳鼻咽喉科疾患のみならず、各種の出血性疾患や血液系疾患にまで応用可能な方剤であり、肝胆実火に対する最も代表的な方剤である。

 なお、日本国内で製造販売されている竜胆瀉肝湯エキス製剤は、出典が異なるため「柴胡」の配合が欠けているので、注意が必要である

 以上、私見に加えて、
 @潮祖先生の『中医治法与方剤 第三版』(人民衛生出版社)
 A方文賢主編『中医名方臨証秘用』(中国中医薬出版社)
 B王元武・赤堀幸雄共著『方義図解 臨床中医方剤』(医歯薬出版)
 の三冊を参考にさせて頂いた。
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ラベル:竜胆瀉肝湯
posted by ヒゲ薬剤師 at 08:16| 山口 ☁| 基本方剤の考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月31日

麦門冬湯の応用

ずいぶん昔に書いた拙論だが、おそらく「和漢薬」誌の『中医病機治法学』の訳注連載中の蛇足的な注釈部分だったように思う。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

            村田漢方堂薬局 村田恭介

 麦門冬湯は、あまりに有名なので、今更述べるまでもないように思えるが、少し変わった病症では、病名治療的にドライアイに対して意外な効果を示すことが多い。白眼は肺に属し眼球結膜まで敷衍できるので、麦門冬湯は肺津虚に対する効能もあることから、合理的に納得出来る筈である。

 また、筆者は舌炎・口内炎に対しても日常的によく使用しており、舌証においては舌苔が少ない場合に適応性があり、たとえ舌質は紅でなく舌尖のみが赤いという程度でも、適応する場合が多い。

 麦門冬湯で大量に配合される「麦門冬」は、潤肺養陰・益胃生津だけでなく清心除煩の効能もあり、肺胃だけでなく心経にも帰経し、心陰虚による虚火上炎にも有効である。

 麦門冬湯が有効であった舌炎・口内炎の症例を包括的に分析すると、胃陰虚・肺陰虚・心陰虚の三者の一つか二つの併存、あるいは三つの併存により、口唇・口中・舌部の乾燥現象の上に、それぞれの陰虚による虚火上炎に誘発されて慢性的な舌炎・口内炎が生じたものと思われる。

 陳潮祖著「中医病機治法学」では、胃陰不足に対する益胃生津法の代表方剤の一つとして取り上げられているこの麦門冬湯は、「肺胃津虚・虚火上炎」の病機に即応するものとして記載されているように、一般的にも肺胃陰虚に対する代表的な方剤として認識されている。

 ところが、実際には人参が配合されているので、肺胃の気陰両虚に対応するものとしての認識も必要である。臨床上は顔を真っ赤にして咳き込む乾燥性の咳嗽や嗄声によく用いられるが、上記のように主薬の麦門冬の薬能と筆者の経験に基づく考察によれば、胃・肺・心のいずれかの陰虚による虚火上炎に誘発されて生じる舌炎・口内炎にも、大いに有効と認められる訳である。それゆえ、麦門冬湯の効能をもう少し厳密に表現すれば、「心肺胃いずれか一〜三部位の気陰両虚、およびこれらの部位の陰虚による虚火上炎」ということになる。

続編的重要関連文献:陰虚による舌炎・口内炎について
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ラベル:麦門冬湯
posted by ヒゲ薬剤師 at 07:42| 山口 ☀| 基本方剤の考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月30日

参苓白朮散という脾虚気弱に対する全面的な方剤について

 脾虚気弱に対する全面的な方剤「参苓白朮散」

村田漢方堂薬局 村田恭介

 参苓白朮散は、一般的には脾虚湿盛(脾胃気虚による水湿内盛)の病機に対する方剤として繁用されるが、脾の気陰両虚に対する方剤としての側面や、脾虚によって生じる気血両虚に対する方剤としての側面も忘れてはならない。

 中焦の脾土は万物の母であり、水穀精微の運化を主り気血生化の源であり、後天の本である。それゆえ、脾土が虚衰して運化機能が低下すると、五臓六腑の濡養不足を来たして各種の病証を誘発する。

 @脾虚によって水穀精微が運化〔消化・吸収・運輸〕されず、気血の原料不足による気虚や血虚の症候が現われる。

 A脾虚のために水穀精微の生成不足により脾臓の陰血と津液が欠乏して脾陰虚が生じる。

 B脾虚による水湿の運化不足により湿邪が内盛する。

 C湿邪が中焦気機を阻害すると昇降失調を来たして胃が和降できなくなる。

 D脾気虚衰によって脾土の子である肺金にも影響して肺気が衰え、湿聚生痰から肺気の宣降失調を誘発する。

 参苓白朮散は、このように脾虚によって誘発される各種の証候に適応する方剤であり、脾虚気弱に対するかなり全面的な方剤と言える。

 舌証については、脾虚湿盛が主体の病証では、胖大で淡紅の舌質に白膩苔を伴うことが多いが、脾陰虚が主体の病証では、胖大であっても紅絳の舌質であることが多く、少苔や花剥苔・地図状舌であることが多い。

 脾胃気虚が遷延すると、脾陰が滋養されなくなって脾陰虚を伴うものである。それゆえ、脾虚気弱に対して一般的な補気健脾の方剤を用いても、期待するほどの効果が発揮されない場合は、方剤中に脾陰虚に対する配慮が欠けているためと思われるので、参苓白朮散を使用してみるとよい。

 また、補気健脾方剤の選択に迷うような時には、暫定的に本方を投与してみるのも一つの方法である。

 一般的な脾気虚の症状とともに口唇の乾燥・指先の角質化・手足の熱感・身体の熱感・皮膚の乾燥などの症状を伴うときは、脾陰虚の症候が顕著であるので参苓白朮散が適応し、特定の疾患では潰瘍性大腸炎・慢性膵炎・慢性腎炎、あるいはアトピー性皮膚炎・尋常性乾癬などで使用する機会がある。

 また、元気がない・疲れやすいなどの気虚の症状とともに、頭のふらつき・目がかすむなど明らかな血虚の症状が見られるとき、一般的な気血両虚との判断から十全大補湯を投与すると食欲減退・身体の熱感・泥状便などが生じて逆効果となり、気虚血少に対する帰脾湯や補中益気湯で効少なく、結局は参苓白朮散でなければ治療効果を発揮出来ない気血両虚もあるので、注意が必要である。

【参考文献】
@「図解 中医方剤マニュアル」(何金森著/植村澄夫訳 東洋学術出版社)

A「中医臨床のための方剤学」(神戸中医学研究会編 医歯薬出版)
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ラベル:参苓白朮散
posted by ヒゲ薬剤師 at 07:10| 山口 ☀| 基本方剤の考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月29日

応用範囲の広い「基本方剤そのままの温胆湯エキス」の製造を、コタローさんが実現するに至ったきっかけとなった拙論

温胆湯(うんたんとう)

1996年の「和漢薬」誌513号の拙論 (村田恭介)

●エキス剤の製品開発が望まれる『温胆湯』

 温胆湯は、中医学では絶対に不可欠な基本方剤である。胆胃不和による痰熱内擾の病機に適応するとされるが、胆と脾胃が虚弱なものが精神的なストレスにより気鬱生痰・気鬱化火を誘発して痰熱を生じ、胆の疏泄と胃の和降の失調とともに、痰熱が少陽三焦を壅滞したものである。

 それゆえ、温胆湯は理気化痰・清胆和胃・疏調三焦の効能を発揮するのが特徴である。

 応用範囲は、冠状動脈性心疾患・動悸・心室性期外収縮・心房細動・高血圧・脳血管障害・甲状腺機能亢進・不眠症など各種の神経症・癲癇・いわゆるメニエール氏症候群・胃十二指腸潰瘍・胆嚢炎・胆石症・妊娠悪阻・気管支炎・気管支喘息等々、数え挙げれば際限がない。

 ところが日本国内では、竹茹温胆湯や加味温胆湯、あるいは基本方剤に酸棗仁・黄連が加味された製剤など、加味方剤のエキス製品はあっても、《千金方》や《三因方》のような原典記載の基本方剤は製造されていない。

 上記のような広範囲な応用が可能となるのは、それぞれの複雑な病機にもとづいた治療法則に対応し、温胆湯の加味・合方を有機的に行ってはじめて可能となるのであるから、中医学がますます認識されてゆくこれからの時代、必然的に原典にもとづいた基本方剤そのままの温胆湯エキスの製造の要望が高まるに違いない。

 温胆湯は『一般用漢方処方の手引き』の210処方中に記載されている方剤だけに、製造許可は容易に得られるはずである。

 温胆湯の配合内容は、黄連・酸棗仁・大棗を除外した「半夏・茯苓・生姜・陳皮・竹茹・枳実・甘草」の七味が最も理想的である。黄連・酸棗仁・大棗の三味を決して配合してはならず、さもなければ有機的に広範囲な活用が出来なくなるのである。

 また、分量としては甘草が一グラム未満の製剤で、甘草に対する注意書きの記載を必要としないものが理想的なのである。

追記:その後、2005年になってようやく小太郎漢方製薬から基本どおりの温胆湯エキス顆粒が製造販売された。)
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posted by ヒゲ薬剤師 at 00:23| 山口 ☀| 基本方剤の考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月28日

十数年以上前に専門誌に書いた「茵蔯蒿湯の考察」に重要な補足を加えてみた

茵蔯蒿湯の考察
                     村田漢方堂薬局 村田恭介

 茵蔯蒿湯は、黄疸治療の名方である。茵蔯は黄疸の要薬であり、清熱利湿の作用があるだけでなく、肝胆の鬱を解除する作用があるので、利胆退黄の効能を発揮する。清熱利湿の山梔子の配合によって利胆退黄の作用が増強されるが、さらに瀉熱通腑の大黄を配合すると、胆管や腸道が通暢するので胆汁が腸道にスムーズに流れ、利胆退黄の作用が促進される。このように僅か三味の配合で、清熱除湿・利胆退黄の強力な方剤が完成する。

 苦寒清熱・利胆通腑・活血行瘀の効能を持つ「大黄」の配合は、特に重要である。大黄の清熱作用は、茵蔯蒿と山梔子の清熱解毒を増強する。大黄の利胆通腑作用は、上述のように胆管と腸道を通暢して胆汁の正常な流れを確保せしめるので、退黄を助ける。大黄の活血行瘀作用は、蔵血の肝の血流を通暢して肝機能の回復を促進するだけでなく、肝臓肥大などの後遺症を防ぐので、大黄の配合は極めて重要な役割を持っている。

 臨床応用としては、黄疸などを伴う肝胆疾患のみならず慢性腎炎や腎不全に不可欠であり、急性蕁麻疹・慢性蕁麻疹・アトピー性皮膚炎のみならず各種の湿疹、さらには湿熱が経絡で蘊結し、熱痺を呈する関節炎などにも応用可能である。

 以上、私見に加えて、

 @陳潮祖先生の『中医治法与方剤 第三版』(人民衛生出版社)
 A方文賢主編『中医名方臨証秘用』(中国中医薬出版社)
 B王元武・赤堀幸雄共著『方義図解 臨床中医方剤』(医歯薬出版)

 の3冊を参考にさせて頂いた。

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posted by ヒゲ薬剤師 at 08:06| 山口 ☁| 基本方剤の考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする