五臓の損傷が最終的にはいずれも腎に及ぶ理由は、気血陰陽の生化・輸運に直接関連している。
気について言えば、肺は呼吸を司り清気の摂取を主る。
脾は運化を司り穀気の生化を主る。
腎は元気の根本{「先天の精」を蔵する}で生命活動の源泉である。
元気は「先天の精」より生じ、元気を持続するためには常に「後天の精」による補充を必要とする。
すなわち清気・穀気・精気{元気の根本である腎の精気のこと}の三者が合して元気となり、三焦を経由して五臓に輸注し、最終的には五臓の機能活動の動力源となる。
このため肺・脾の気が虚すと元気が衰え、最終的にはいずれも腎の気化機能に影響して腎気虚損を引き起こすことになる。
血について言えば、心は行血し、肝は蔵血し、血は腎が主る髄から化生する。心・肝の血が消耗すると腎の主る骨髄に波及して腎精の虧損を引き起こす。
さらに陰陽について言うと、腎は水を主る臓であり、元陰元陽{腎陰腎陽}の根である。
五臓は腎陰の濡潤によってはじめて正常な機能活動を行うことが出来る。
このため、どの一臓が陰津虧損した場合でも直接腎陰を損傷することになる。
五臓はまた腎陽の温煦を必要としており、それによってはじめて気血津液の生化輸泄・昇降出入を全うすることが出来る。
このため、どの一臓の陽気が虧損した場合でも直接腎陽を損傷することになる。
(以上、主として陳潮祖著「中医病機治法学」中の腎系統の発病の原因に基づく)
現実的な問題として慢性疾患が長期に渡ったため腎に影響が及んでしまった症例は臨床的によく見られるもので、以上の論述も中医学においてはかなり常識的な見解であるから十分に理解しておく必要があろう。
また、この点についての見解では張瓏英先生著作の「臨床中医学概論」(自然社発行、緑書房発売)にも各所で具体的に述べられており、実際の臨床における治療指針となる論述が多いので、是非参照されたい。
補足: 腎精は常に水穀精微(臓腑の精)により、精(体内貯蔵栄養物質)として補充され、そして貯蔵されるものである。
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