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2018年12月01日

生姜と乾姜の驚くべき錯誤(間違いだらけの漢方と漢方薬)

  生姜と乾姜の驚くべき錯誤

 乾燥生姜を使用すべきところを、蒸して加工して飴色に黒変した煨姜(わいきょう)もどきの代物が、乾姜として使用される我が日本国の漢方界の杜撰さには驚くばかりである。 単に生姜を乾燥しただけのシンプルな乾燥生姜を用いればよいものを、わざわざ本来期待される乾燥生姜の効力を台無しにしているのである。

 生の生姜であるべきところを乾燥生姜を用い、乾燥した生姜を用いるところを、わざわざ蒸して飴色に加工した煨姜(ワイキョウ)もどきを用いるのは、明らかな錯誤である。

 この、漢方薬の製剤原料としての乾燥生姜を、日本薬局方では「生姜」と名づけているのだから驚くばかりである。これは明らかに中医学における乾燥生姜、つまり「乾姜」なのである。
 生姜というからには、生(なま)のものでなければ生姜と呼べるわけがないではないかっ!
 こんなことは、子供でも分かりそうな常識だが、不思議と日本の漢方界は杜撰さを通り越して非常識極まりないのである。

 たとえば胃がつっかえておなかがゴロゴロなるような時に、漢方では「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」が使われるが、日本では「煨姜(わいきょう)もどき」が配合されていることが多い。
 処方集にはちゃんと「乾姜」と書かれているのだから、ひね生姜を乾燥させた「乾燥生姜」を使用すべきである。
 でなければ、乾燥生姜にある消化促進作用がかなり損なわれる。

 日本のように蒸した後に乾燥させた煨姜もどきを半夏瀉心湯に使用されたのでは、その人の病症にピッタリ合っているはずでも、効力が台無しになる場合すらある。
 さいわいに、錠剤や顆粒剤になった漢方製剤でも、煨姜もどきではなく、正しい乾燥生姜を用いている製品も少数ながら製造されているので、大いに助かる。

 柴胡桂枝乾姜湯という日本漢方では、よく使用される方剤があるが、この方剤も日本漢方では、本当の乾姜が使われずに、煨姜もどきが使われているものだから、体質にフィットしているはずでも、へんに胃にもたれたりして、思ったほど効力を発揮できないことが多い。
 そんな人にでも、煨姜もどきではなく正しい乾姜(乾燥生姜)が使用されていると、胃にもたれることもなく、良好な結果がえられことが多いのである。

【関連参考文献】

意外に重要な!漢方製剤および煎薬の品質問題
半夏瀉心湯 (はんげしゃしんとう)
日本国内における乾姜の錯誤問題についての御質問
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2018年11月30日

白朮を蒼朮で代用する杜撰(間違いだらけの漢方と漢方薬)

 白朮を蒼朮で代用されている医療用漢方の問題は小さくない。

 そうはいっても現実的には、五苓散中の白朮を蒼朮で代用することは、実際にはそれほど大きな問題ではないものの、補中益気湯や六君子湯など、いわゆる虚証向けの方剤において、白朮を蒼朮で代用されているエキス製剤は、問題はかなり大きい

 これらの拙論を全否定しようとする人達は、玉屏風散中の白朮は絶対に蒼朮で代用できないことを考えてみるがよい。

 これでも理解しようとしない頑迷な人達は、補気建中湯や分消湯、あるいは半夏白朮天麻湯などでは、白朮と蒼朮の両者が配合されている意義を考えてみるがよい。

 それでも、なおかつ頑迷に否定する人達は、万事休す。

  白朮を蒼朮で代用する杜撰

 日本の漢方製剤には原料生薬の吟味において、極めて杜撰なメーカーさんが目立つ。その最たるものがこの蒼朮(ソウジュツ)と白朮(ビャクジュツ)の区別である。
 ひどいメーカーになると白朮であるべきところがすべて蒼朮に改悪されて製造されているところもある。しかも日本の代表的な医療用漢方メーカーで顕著であるから由々しき問題である。

  白朮と蒼朮は類似点は多いが中薬学上の薬効は明かに違いがある。
 脾虚脾湿に適応する白朮と、湿邪の実証に適応する蒼朮である。燥湿健脾を特長とする白朮と、袪風除湿を特長とする蒼朮である。

 白朮と蒼朮の最大の違いは、白朮は固表止汗して黄耆(オウギ)がないときの代用品になるくらいだが、蒼朮は逆に散寒解表して発汗作用があるので決して黄耆の代用とはなり得ない

 たとえば玉屏風散(ギョクヘイフウサン)は黄耆・白朮・防風の三味で構成されるが、この白朮を蒼朮で代用するなんてことは絶対にあり得ない。
 蒼朮を用いることは玉屏風散の立方の主旨、表衛不固に対する治療方剤(益気固表止汗)にはなり得ないからである。

 日本漢方の杜撰さがここにあり、補虚の白朮を袪邪の蒼朮に置き換えたら四君子湯も六君子湯も補中益気湯も、苓桂朮甘湯など、本来の方意を微妙に損なうことになる事実を知る医療関係者がどれだけいるのだろうかっ?

 このような白朮と蒼朮の問題は、すべて学問的にも臨床的にも中医学的には常識中の常識の問題である。

 なお、以下に 1982年・陝西科学技術出版社刊「中薬方剤基本知識問答」に記載される蒼朮と白朮についての記載の一部をピックアップし、意訳して参考に供する。
蒼朮と白朮は《神農本草経》での記載において区別はなく、《名医別録》で初めて赤朮、白朮と分けられた。
すなわち赤朮とは現在の蒼朮のことである。宋代に到って《政和本草》で蒼朮の名が出で来る。

 蒼朮、白朮の二つの朮はいずれも燥湿健脾の効があり、どちらも湿阻脾胃、脾胃気虚により運化機能が失調して起こる脘腹満悶、食欲不振、悪心嘔吐、泄瀉、無力等の症に用いられる。
 それゆえ臨床上、二薬は常に合用する。

 蒼朮と白朮の両種薬物の異なる点は、古人の李士材曽が総結して「寛中発汗の効は蒼朮が勝れ、補中除湿の効は白朮が勝る。脾虚には白朮を用いてこれを培し、胃強には蒼朮を用いてこれを平げる。補脾には白朮を用い、運脾には蒼朮を用いて補運を相兼ね、両者を合用する。湿盛の実証には蒼朮を多用し、脾弱の虚証には白朮を多用する
 と述べている。これは前人が二つの朮に対する臨床の応用面の経験を総結したものであり、参考価値が高い。

 具体的に説明すれば、蒼朮の味は辛でよく発散し、性は温で燥、芳香の気が強く、燥湿作用は白朮よりも優れ、健脾の効は白朮に及ばない。
 痺証の治療では、虚湿が重い場合は白朮を用い、実寒が甚だしい場合は蒼朮を用いる。
 この他、蒼朮は湿温、夜盲症、佝僂病等にも用いる。

 白朮は補気固表の効があり、表虚自汗に用い、また安胎の作用があることから、妊婦の脾胃虚弱で水湿内停して起こる悪心嘔吐、眩暈、胎動不安および両足の浮腫等、胎気不和の諸証に用いられる。

 −1982年・陝西科学技術出版社刊「中薬方剤基本知識問答」

      参考文献

補中益気湯に蒼朮(ソウジュツ)が配合される錯誤問題
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2018年11月29日

温病学を学ばない日本漢方の杜撰(間違いだらけの漢方と漢方薬)

    温病学を学ばない日本漢方の杜撰

 医療用漢方を含めて、日本漢方には「温病学」関連の方剤が僅少である。
 傷寒論・金匱要略は聖典として重要視しても、明(みん)から清代(しんだい)にかけて急速に発達した温病学を無視し続けるから当然であろう。
 だから王孟英の『温熱経緯』はおろか呉氏の『温病条弁』を見向きもしない。

 このため、一般の風邪だけでなくインフルエンザに対しても威力を発揮する温病に対する銀翹散(ぎんぎょうさん)製剤系列の方剤(天津感冒片や涼解楽など)が使用されることもないし、ましてや医療用に採用されることもない。
 一握りの中医学専門の医師、あるいは特定の中医学薬学を重視する薬局・薬店グループ関連で取り扱われるだけである。

 日本漢方では、中国古代にまとめられた傷寒論医学ばかりに固執し、時代が下って清代に発達した温病学を取り入れようとしない。
 昨今の温暖化のみならず食料豊な時代の急性疾患に、いつまでも栄養状態が劣る時代に考案された傷寒論医学で対処しようとするのは時代錯誤に近いものと言えないだろうか。

 「温病」の概念がないまま、上気道感染症をすべて傷寒と判断する日本漢方の錯誤は是正されなければならない。
 風邪やインフルエンザを治療するのに、いつまでも傷寒論医学ばかりに固執していると、「漢方医学」は日本の伝統医学であるなどと、胸を張っておれなくなる。

 巷では、風邪に葛根湯という常識が既に崩れ始めている。病院で貰った葛根湯が意外に効かないので、薬局にかけこんだら天津感冒片や涼解楽などの銀翹散製剤が出され、これであっさり治ってしまったという例があとを絶たない。

 「傷寒論」は異病同治の模範を示したところに意義があり、「金匱要略」は同病異治の模範を示したところに意義がある。
 「温熱経緯」や「温病条弁」は現代人の急性疾患のみならず、多くの難病を解決するヒントがたくさん書かれている。

 昨今のように漢方医学に西洋医学流のエビデンス概念を取り込むことばかりに血道を上げるようでは、日本漢方の明日はないかもしれない。

  重要な付録

 《温熱経緯》は、一八〇八年に生まれ一八六七年に没した王士雄(字は孟英)が、一八五二年に編集・著述。
 内経や傷寒論中の温病に関連した条文を経とし、葉天士(外感温熱篇)・陳平伯(外感温病篇)・薛生白(湿熱病篇)など諸家の説を緯とし、歴代の医家の見解を引用して、温病の病因病機・症候・診断・治療原則などを解明している。
 のみならず、王孟英自身の臨床経験に基づき、温病を新感と伏気の二つの分類を前提とした弁証論治を提唱した。
 また、用薬上の原理や原則も検討しており、温病学説における系統的な総括を行ったものとしては歴史的に最初の著作である。
 それゆえ後学にとって大変重宝な温病学の原典の一つである。

温病条弁》は、1758年に生まれ1836年に没した呉瑭(字は鞠通)が、1798年に出版。
 急性伝染病が従来の治療方法では治りにくいことを慨嘆していた呉鞠通は、明代の呉又可著『温疫論』に触発され、葉天士(1667〜1746年)の理論から多くを学ぶ。
 とりわけ葉桂(天士)の《臨床指南医案》を重視し、自身の数々の臨床経験を総括して補足・整理し、三焦を経とし、衛気衛血を緯とした「三焦弁証」を提唱した。
 四時に生じる急性熱病(温病)をメインテーマに、温熱病と湿熱病に分類して、傷寒論医学に欠落していた温病学説を大きく前進させた。
 中医学における《温病条弁》の位置は、傷寒論と同等以上に重要な典籍となっている。

   参考文献

日本の伝統医学と言われる「漢方医学」に欠落するもの
日本漢方には「傷寒論」があっても「温病学」がないのは致命的かもしれない
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2018年11月28日

日本漢方を堕落させた吉益東洞(間違いだらけの漢方と漢方薬)

日本漢方を堕落させた吉益東洞

 江戸期の漢方医である吉益東洞は、陰陽五行学説を基礎に発展・発達した中国の伝統医学の最もエッセンシャルな部分である「陰陽五行」を臆面もなく完全に否定した。

 この本来の中国の伝統医学の最もエッセンシャルな部分を、空論臆説として退けるという暴挙により、取り返しのつかない自己矛盾を犯したのである。

 つまり、陰陽五行を否定した時点で、もはや東洞流の日本漢方は、漢方の来源である中国医学の本質を否定するものであり、その自己矛盾による自縄自縛により、没理論の泥沼に埋没する方向へまっしぐらに進むことになった。

 事実、歴史が証明するように吉益東洞は「親試実験」という実証主義の旗印を掲げて没理論の方向へ突き進んでしまったわけで、それは現代の医療用漢方における「漢方の科学化」と同類の考えに他ならない。

 現代のこの一見実証主義的な「漢方の科学化」という名目は、単に病名漢方的な西洋医学化にすり替わり、ますます本来の漢方医学の本質を見失いつつある。

 江戸期の吉益東洞の行なった「親試実験」は、それがそのまま現代における「漢方の科学化」という名の下に行われる中国の伝統医学の本質を忘れた没理論の「マニュアル漢方」であることを、重ね重ね強調してし過ぎることはないだろう。

  重要参考文献

日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!)
平成の御世も深まって、とうとう吉益東洞先生は・・・
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2018年11月27日

『脾肺病としてのアトピー性皮膚炎』という過去の拙論

脾肺病としてのアトピー性皮膚炎
 
東洋学術出版社発行の『アトピー性皮膚炎の漢方治療』に掲載。
 1996年の発行で、B5判 216頁 全24篇 55症例 カラー写真多数 定価:3,570円 ということだが、現在は中古でしか手に入らないかもしれない。
           村田漢方堂薬局 薬剤師 村田恭介


   ●はじめに

 アトピー性皮膚炎は,現象的には皮膚と皮下組織の病変であり,中医学的には肺に属する「皮毛」と脾に属する「肌肉」の病変であるから,アトピー性皮膚炎は肺脾病と考えることが出来る。それゆえ,大気汚染の状況や空調設備の環境および食生活の習慣や環境などと,密接な関係がある。

 ところで,『素問』咳論に「五臓六腑はみな人をして咳せしむ。独り肺のみにあらざるなり」と述べられているように,五臓の機能が失調すると少陽三焦を運行する気機の逆乱を誘発し,いずれも肺の宣降を失調させて咳嗽が出現し得ることを指摘しているが,アトピー性皮膚炎も同様に,五臓の病変が肺脾に波及すると,いずれもアトピー性皮膚炎を誘発し得るのである。

 昨今のアトピー性皮膚炎には様々なタイプがあり,代表的な弁証分型を提示することは出来ても,すべてを包括することは不可能な状況である。肺脾の疾患であっても,五臓の病変はいずれも本病を誘発し得るだけに,病機は複雑多岐である。とは言え,これは何もアトピー性皮膚炎に限ったことではなく,大局的に見れば他の疾病と何ら異なることのない普遍的な共通性である。それゆえ,アトピー性皮膚炎だからと言って特別視する必要はなく,肺脾病との認識に立脚して中医学理論に基づく弁証論治を忠実に行うという基本的な営為こそが,最も有効な治療方法と言える筈である。

 人体の生命活動は「五行相関に基づく五臓を項とした五角形」が基本構造であり,病機分析(病態認識)の基礎理論となる構造法則の原理は,陰陽五行学説である。陰陽五行学説という原理に基づく中医学理論は,よりハイレベルな構造法則として常に発展していく必要があるが,差し当たりは現段階における中医学理論に基づき,五臓を項とする五角形のひずみを矯正することが,疾病治療の基本原則となる。

 つまり,西都中医学院の陳潮祖教授が『中医病機治法学』(四川科学技術出版社発行)で述べられているように,五臓間における気・血・津液の生化と輸泄(生成・輸布・排泄)の連係に異常が発生し,これらの基礎物質の生化と輸泄に過不足が生じたときが病態であるから,五臓それぞれの生理機能の特性と五臓六腑に共通する「通」という性質に基づき,病機と治法を分析して施治を行うのである。

@病因・病位・病性の三者を総合的に解明し,
A気・血・津液の昇降出入と盈虚通滞の状況を捉え,
B定位・定性・定量の三方面における病変の本質を把握するというわけである。

 治療方法については、これらの病機分析に基づき,病性の寒熱に対応した薬物を考慮しつつ,

@発病原因を除去し,A臓腑の機能を調整し,B気血津精の疏通や補充を行うのである。

 治療の成否は,中医基礎理論の知識を実際の臨床にどのように活用し,応用出来るかという一事に関わっているが,実際の臨床においては「現症の病機」の把握に大きな間違いがなければ,アトピー性皮膚炎と言えども,既製のエキス剤の代用によっても,一定の成果を上げ得るのである。
 

      ●症例


 (1)当時13歳の女子。身長155cm,体重45Kg。初回,平成5年8月6日。

 [主 訴] アトピー性皮膚炎。
 
[原病歴] 3歳頃に発症し,近隣の皮膚科で加療。主としてステロイド系の軟膏を断続的に使用し続け,軽快と増悪を繰り返していたが,マスコミによるステロイド軟膏の副作用情報に両親が恐怖感を抱き,平成5年5月下旬よりステロイド軟膏を含めて,病院治療をすべて中止する。しばらくして顔面や首回りと四肢の屈曲部を中心に紅皮症様となり,激しい痒みを伴い,掻破して出血する。人に勧められてよもぎ風呂を使用すると,2〜3割程度の緩解があったが,それ以上は良くならない。  

[現 症] 顔面の紅潮が著しく,首と四肢の屈曲部・足の裏・手掌に掻破痕があるが出血以外には滲出液はみられず,すべての患部に白屑が伴っている。少食で疲れやすく寒がり,夜間は夏でも蒲団に頭までもぐり込んで寝る。痒みは風呂上がりに最も激しい。 
[舌 象] 舌の大きさは普通で中心に1本の溝がある。舌質は淡紅・舌尖は紅で点刺が顕著・舌苔は微黄膩・舌下脈絡が青黒く怒張。  

[現症の病機] 脾肺の気虚とともに脾虚生湿と心火亢盛を伴ない,火熱が湿邪と合体して湿熱が生じ,表衛の機能低下による悪風も伴っている。  

[治 法] 補気健脾・燥湿瀉火
 
[処 方] 補中益気湯・黄連解毒湯の各エキス剤(日本で常用される煎薬換算の半量を分3)。  

[経 過] 服用開始の初日から即効し,わずか4日間で,奇跡的に全身の皮膚炎の殆どが消滅した。ところが,5日目から次第に効力が低下し,20日後の状況は足の裏・手掌・首回りが乾燥して白屑が強い。顔面の紅潮や全身の掻痒は殆ど消失したが,首は乾燥のために痛い。

 また,全身の所々で毛穴を中心にした鳥肌が立ち,項背部が凝って寒い。相変わらず就寝時は寒がって蒲団に頭からもぐり込んでおり,足腿の内側部分は鳥肌状の赤い発疹が顕著に出現している。
 以上により,表衛のさらなる機能低下により,風寒束表が誘発されたと考えて「葛根湯」,少陽三焦を通じて体内の津液分布の偏在を調整する「猪苓湯」の二方剤を追加し,それぞれ煎薬換算の半量を分3で加える。

 9月中旬,全体的に軽快しているが,風呂上がりに足の裏が紫色になり,気味が悪いという。黄連解毒湯による氷伏を恐れ,本剤のみ服用量を半分に減す。これで配合バランスがほどよく調整され,多少の波を打ちながらも比較的順調に軽快し,翌年の平成6年3月にはほぼ消失し,念のため10月まで服用して,治療を徹底させた。

 なお,平成6年の1月には黄連解毒湯のみ一時的に中止してもらったたことがあったが,やはり本剤がないと掻痒感が出現してしまうので,結局は少量の配合が必要であった。

 [考 察] 筆者自身は,アトピー性皮膚炎に葛根湯を用いたのは初めての経験であった。表衛の機能低下の上に心火旺盛という状況に対する黄連解毒湯の配合比率は微妙である。配合比率のまずさから風寒束表を誘発する絶好の条件を与えてしまった可能性も考えられる。結果的には黄連解毒湯の配合量を他方剤の2分の1に減量することでバランスが取れた。

 以前,当時14才の愚息の流感による高熱に対し,銀翹散製剤と黄連解毒湯で即効的に治癒させたことがあるが,治癒後もだらだらと続服させていたら,夜間尿の回数が急増して困ったことがある。黄連解毒湯を中止し,腎陽を強力に温補する海馬補腎丸を飲ませて治癒させたが,黄連解毒湯などの清熱瀉火薬を連用する場合は,衛気の来源である腎陽を損傷しないように細心の注意が必要である。

 『霊枢』営衛生会篇に「衛は下焦より出ず」とあるように,衛気は腎から生じる元気がもとになっており,腎陽の蒸騰気化を通じて水穀の精微から化生し,肺の宣発によって全身に散布されるので,衛気が正常に機能するには,@腎精が充足し,A脾が管轄する水穀の精微が充足し,B肺の宣発機能が正常に働く必要がある。

 本例では,心火に対する黄連解毒湯を少量併用しつつ,肺脾の虚損に対する補中益気湯,肺気の宣発を促進する葛根湯,および腎陽の温補も兼ねる葛根湯中の桂皮が合理的に働いて表衛の機能を正常化させ,さらに桂皮は黄連解毒湯による氷伏や腎陽の損傷を防止している。猪苓湯は肺・脾・腎・肝四臓の補益とともに滋陰利水の効能をもつので,少陽三焦を通じて皮毛と肌肉間の膜腠区域の水分代謝の偏在を調節する効能があり,あらゆるタイプのアトピー性皮膚炎に応用が可能である。以上の四方剤によってバランスのとれた治癒力を発揮したものと思われる。

 本例のアトピー性皮膚炎は,心火と脾虚生湿による湿邪の一部が互結して湿熱を生じ,湿熱が少陽三焦を通路として表衛の機能低下に乗じて,皮毛と肌肉間の膜腠区域を擾乱したものと認識している。



 (2)当時18歳の看護婦さん。初回,平成6年5月7日。

 [主 訴] アトピー性皮膚炎。

 [原病歴] 小児の頃から本病の体質傾向があったが,平成5年になって顔面と手足に顕著な増悪が見られ,10月から当時まだ就学中の付属病院にて加療。ベタメサゾンとビタミン剤のD・M2種類の内服薬とともに,外用薬としてメサデルム軟膏が出され,指示を守り治癒を期待したが,軽快と増悪を繰返し,結局は治癒の傾向が一向に見られないので,母親に連れられて来局。

 [現 症] 掻痒感が強く白屑を伴って顔面の紅潮が著しい。両手には強い掻痒感を伴う水疱があり,掻きむしると透明な滲湿液が流れるが,皮膚表面は乾燥してひび割れと白屑を伴っている。軽度の鼻炎傾向があり,透明な鼻汁が出やすい。

 [舌 象] 舌の大きさは普通で舌質は淡紅・舌尖は紅で紅点が顕著・舌苔は白・舌下脈絡が青黒く怒張。

 [現症の病機] 心火熾盛とともに湿熱毒邪が皮毛と肌肉の間隙である膜腠部分で壅滞した状況である。

 [治 法] 瀉火解毒・清熱化湿

 [処 方] 黄連解毒湯・猪苓湯の各エキス剤(日本で常用される煎薬換算の半量を分3)。

 [経 過] 順調に経過し,漢方薬を使用後は病院から出されていた内用剤・外用剤ともにすべて中止したが,心配されたリバウンドも全くない。7月6日の報告では,直射日光に浴びる機会が多かったのが影響したのか,瞼に痒みを伴う発疹が出没。また,手の皮が繰返し剥がれる。同方を持続し,7月20日の時点では,上記の症状はほぼ消退した。8月6日の報告では手の爪と,爪の根本に異変が生じ,カンジタ様の病変が出現。看護婦さんの仕事上不可欠な消毒液の影響が考えられる。上記方剤に十味敗毒湯エキス剤(煎薬換算の半量)を追加。平成7年2月一杯まで真面目に服用し,アトピーのみならずカンジタ様の病変も消失して廃薬。

 [考 察] アトピー性皮膚炎を誘発した根本的な病因・病機を深く追究しなくても,現時点の一連の症候に基づく「現症の病機」さえ把握出来れば,治法と方剤がおのずと定まるので,充分に治療効果が出せることを証明した典型的な症例である。



 (3)当時14歳の女子中学生。身長161cm,体重51Kg。初回,平成5年10月6日。

 [主 訴] アトピー性皮膚炎。

 [原病歴] 小児の頃から本病の体質傾向があったが,平成4年にケーキ屋さんでアルバイトする姉が,毎日の売れ残りを沢山持って帰る日々が続いたお陰で,ケーキ漬け天国の期間が数ヶ月続いていた。ところが11月になって突然,顔面・四肢の屈曲部に激しい発赤・腫脹・掻痒感が発生。このため,一般の皮膚科医院に通院治療していたが,ステロイド剤による副作用のマスコミ報道で恐怖心を煽られ,西洋医学による治療を中止し,漢方薬を求めて母親と来局。皮膚科の検査では,IgEに「家ダニ」と「鶏卵」に陽性が出ていた。

 [現 症] 顔面の紅潮と腫脹が顕著で白屑を伴うだけでなく,所々に掻きむしって生じた滲湿液が黄色のかさぶたを形成している。四肢の屈曲部も同様に,掻きむしって血液を伴った滲湿液が出てかさぶたを形成している。首や腹部や背部にも見られ,殆ど全身に皮膚炎が蔓延している。慢性的な鼻閉・希薄透明な鼻汁・くしゃみなどもあり,皮膚炎のみならず鼻炎症状も顕著。  大便は4〜5日に1回。体力がなく寝るのが大好きで,学校から帰ると寝てばかりいる。皮膚炎が増悪して以来,学校をさぼりがちである。寝汗をよくかき,真冬でも薄着であるが,足が冷える。但し,寝汗をかくような時には,逆に足が火照る。生理の量が多い。

 [舌 象] 舌形は嬌嫩・舌質は淡紅で舌先が鮮明な紅色を呈している。中央部より舌根部にかけて微黄膩苔があり,その他は無苔。

 [現症の病機] 肺脾の気陰両虚の上に,脾虚生湿と心火・肺熱を伴い,このために痰(湿)熱が生じて皮毛と肌肉が接する膜腠で壅滞している。

 [治 法] 気陰双補・清熱化痰(湿)

 [処 方] 補中益気湯エキス剤(日本で常用される煎薬換算の全量を分3)・辛夷清肺湯と猪苓湯の各エキス剤(煎薬換算の半量を分3)・適量の大黄の錠剤。

 [経 過] かなり即効があり,皮膚炎・鼻炎症状ともに急速に消退。リバウンドが心配されたが,極めて順調に経過し,年内には殆ど無症状に近い状態となる。平成6年の4月一杯まで連用して,再発の徴候が見られないので,廃薬。

 [考 察] もしも期待する効果が発揮出来ない場合は,上記の方剤に参苓白朮散の半量を加えて少々脾陰虚に重点を移し,補中益気湯は半量に減量する予定であったが,結果的にはその必要もなかった。

 なお,辛夷清肺湯は日本漢方においては鼻疾患専門の方剤とされているが,中医学的には肺陰虚と肺熱が同時に介在する各種疾患に応用出来る便利な方剤である。アトピー性皮膚炎や気管支炎・気管支喘息のみならず,降圧剤の副作用による咽喉炎や気管支炎などにも応用する機会が非常に多い。



 (4)当時23歳の女性。初回,平成5年5月6日。

 [主 訴] アトピー性皮膚炎。

 [原病歴] 小学生の頃から本病の体質傾向があった。ここ数年来,両手に主婦湿疹様の皮膚病があり,折々に皮膚科にかかってステロイド軟膏をもらって治癒と再発を繰り返していた。四年制大学を卒業したものの就職浪人が決定して以来,アトピー性皮膚炎が全身に次第に発症しつつあったが,友人に勧められたベビー石鹸を初めて使用し,その晩に父が持って帰った握り鮨を大量に食した翌日から激化。顔面・四肢の屈曲部のみならず両腕全体が,激しい掻痒感を伴って発赤・腫脹・乾燥・落屑が出現。右耳周囲の掻痒感は特に強烈で耳切れも併発。マスコミ情報の影響で,ステロイド軟膏の使用に不安を覚え,漢方薬を求めて母親と来局。

 [現 症] 上記の症状の他,両手首から腕にかけて,暗褐色の苔癬化した色素沈着が顕著。手の指や掌に痒みの強い水疱が多数発生し,掻きむしると透明な滲湿液を伴って,ボロボロと表皮が繰返し剥がれる。顔面や両腕・腹部などに掻きむしった血痂と苔癬化した個所が無数にあり,とりわけ腹部には腕と同様に苔癬化した色素沈着の顕著な部分が広い。

 [舌 象] 舌は痩薄で横皺の裂紋が多く,舌質は紅絳・舌苔は薄白で乾燥し,舌根部に苔が解離した暗紅色の無苔部分がくっきりと目立つ。また,舌下脈絡が青黒く怒張。

 [現症の病機] 陰血虚損の体質である上に,辛辣厚味の多食による胃熱によって胃陰を損傷し,母病が子に及んで肺熱と肺陰虚を併発し,脾不運湿による湿と熱が互結して湿熱を生じて皮毛と肌肉が接する膜腠で壅滞している。

 [治 法] 滋陰・清熱・化湿を行った後に補血活血も併用する。

 [処 方] 辛夷清肺湯(全量)・三物黄芩湯・(半量)猪苓湯(半量)の3方剤の併用。後に温経湯(全量)も追加。

 [経 過] 手と色素沈着のある両腕と腹部は目立った効果は認められないが,発赤・腫脹・落屑が併発している部分はすべて順調に軽快し,数ヶ月後に顔面の紅潮がほぼ完全に消退したところで,温経湯を追加。これによって,次第に色素沈着が顕著な両腕と腹部の苔癬化していた部分が消退し始め,平成7年6月まで上記の4方剤を併用。色素沈着がほぼ消退したので,以後は辛夷清肺湯と猪苓湯の2方剤のみ,予防と体質改善の徹底を期待して現在も続服中。なお,舌根部の苔の解離部分は完全に消滅している。

 [考 察] 平成8年2月現在も,母親の希望で上記の2方剤のみを継続しているが,理想的には適量の温経湯も併用すべきであろう。引き続き観察中であるが,今のところ再発は見られない。


  ●おわりに

 アトピー性皮膚炎は,現在大きな社会的問題となっているが,中医学的には基本通りの弁証論治を正確に行えば,かなりな成果が得られる。既に述べたように,治療の成否は中医基礎理論の知識を実際の臨床にどのように活用し,応用出来るかという一事に関わっている。

 前掲の症例は,初期から弁証論治が比較的正確に行えたものばかりを掲載させて頂いたが,実際の臨床では,初回から期待するような治療効果が出せず,長い間,病人さんともども難行苦行を強いられたことも何度か経験している。このような場合でも,軽快後の結果から考察すると,結局は不正確な弁証が原因であり,正確な弁証がありさえすれば,比較的スムーズに軽快・治癒に向かわせることが出来た筈のものであった。

 根本的な病因・病機をそれほど深く追究しなくとも,現時点における一連の症候に基づいた「現症の病機」さえ把握出来れば,おのずと治法と方剤が確定されるので,既製のエキス剤の代用によっても,充分に一定の効果を上げることは可能である。
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posted by ヒゲジジイ at 00:01| 山口 ☁| アトピー性皮膚炎・酒さ、および各種湿疹類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする